[コメント] ANNIE アニー(2014/米)
原作ミュージカルおよびジョン・ヒューストン監督版の舞台からおよそ八〇年後に時代を移したことに伴う大小様々の改変が施された作だが、開巻早々からクヮヴェンジャネ・ウォレスがフランクリン・デラノ・ルーズヴェルト政権期に言及するなどは遺漏ない目配せで、演出家は強かに映画を走り出させている。
また、このオープニング・シーンにおいて、この映画が企むミュージカル演出の基本方針も同時に示されることになる。授業の課題発表者に指名されたウォレスはそこにパフォーマンスの要素を採り入れ、律動的に床を踏み鳴らす。彼女に煽られた児童たちも机を叩き、手拍子を取る。すなわちここに生起しているのは一節のパーカッシヴ・ミュージックにほかならず、『ANNIE アニー』においてウィル・グラックが目指したミュージカル演出とは、云うなれば「身体の音楽化」である。
「躍動感」「連続感」「量感」などによって測られるダンス・スペクタクルの達成度にかけて、このグラック版がヒューストン版に対して較べようもないほどに劣っていることは云うまでもない。というよりも、賢しらなグラックはヒューストンと同じ土俵に立つことすら拒んでいると云うべきだろう。“It's a Hard-Knock Life”がダンス・ミュージカルとしてのヒューストン版『アニー』において最も魅力的なナンバーとなった所以のひとつ、すなわちハニガン女史の管理下に置かれた孤児(里子)たちの過剰な「人数」を、グラックはあらかじめ大幅に削減している。それゆえグラック版『ANNIE アニー』の“It's a Hard-Knock Life”は目を疑うようなアクロバットも量的過剰も持ちえない。それでもなお直ちに失望を表明することが躊躇われるのは、やはりここでも「身体の音楽化」というアプローチでもって紛れもないミュージカルの刻印が押されているからである。そしてそれは、よりよく音楽の幸福を伝えもするだろう。
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