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[コメント] X-MEN:フューチャー&パスト(2014/米)

これまでのシリーズをきちんとまとめるなど、ほとんど曲芸。それでちゃんと楽しませてくれるんだから、本作は見事な出来と言える。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 このシリーズは結構枝葉が伸びているのだが、これまでのシリーズを全部包含したものとして本作は作られている。

 正直そんなことが出来るとは思ってなかった。ほとんど曲芸とも言えるが、こんなことをやってくれたことに惜しみなく称賛したい。

 スチュワート&マッケランのコンビだけでなく、マカヴォイ&ファスベンダーのプロフェッサーXとマグニートの姿が観られたことも嬉しいし、この二人が自らの信念に従って、時に協力、時に敵対という姿勢を取り続けていたことも分かったし、『ファースト・ジェネレーション』と正史の間にあるミュータント達の断絶の理由も明らかにされた。結局あれだけいたミュータントの大部分は、1970年代にみんな殺されてしまったことが分かる。

 プロフェッサーXもマグニートーも、ミュータントを愛し、彼らを守ろうとする姿勢は一致しているのだが、そこからの姿勢が違う。ミュータントと人類は共存できるとを主張するプロフェッサーX。対してミュータントこそが人類を指導する立場にあるのだとするマグニートーの立場。この二人の主張のぶつかり合いが本作の物語そのものを引っ張っていく。

 そこで重要なキーパーソンとなるのがミスティーク。彼女の遺伝子情報がセンチネル計画の肝となり、彼女が人類に捕まってしまったら、その時点で未来は終わってしまう。それに対し、本来敵対する立場にあるプロフェッサーXの方が彼女を保護しようとしているのに対し、ミスティークの上司であるマグニートーが、もっと手軽に、彼女を殺してすべてを終わらせようとしているところが描かれるのだが、これが二人の主張のぶつかり合いを視覚化したものとして捉えるべき部分だ。

 ミュータントの未来の為に、彼女には死んでもらわねばならないとするマグニートー。それは彼にとっても苦渋の選択だっただろう。自身の片腕とも言えるミスティークがいなければ、マグニートーの考えるミュータントの独立は遠くなる。だが、彼女が生きている限りは人類に狙われ続け、一回でも人類に彼女が囚われてしまった場合、全ては灰燼に帰す。だからこそ、彼女には死んでもらわねばならないと考えた。一方プロフェッサーXの場合、人類との共存が可能であれば、人類は対ミュータント用のセンチネルを作らないで済むはず。と考えているため、敢えて敵であるミスティークをも助けられると考えた。  実はこの二人の主張のぶつかり合いこそが、本作の最大の見所となる。そしてその二人の思いを受け、ミスティークが下した判断が、ミュータントの未来を作り出していくことになった。

 その結果が、あのラストシーン。これまでの戦いで死んだ筈のX-MENメンバーたちが全員生き残り、ミュータントにもちゃんと未来は用意されていた。マグニートーやミスティークは決して単なる悪の存在ではないし、単に本作が「的の敵は味方」を描いただけのものではないことがここで分かる。形はいろいろ違っていたとしても、ウルヴァリンはX-MENのメンバーになり、ミスティークの変化によってジーンは覚醒することなく、故にスコットも生き残る。最後に憎まれ口を叩くスコットを見ているウルヴァリンのシーンはとても印象深い。

 …あれ?そうなると、ウルヴァリンの存在はどうなる?彼の存在とは、未来の危機を警告するためだけでしかない。狂言回しのような存在。結局最後は宿敵ストライカーに発見されてしまい、同じ運命を辿ることになるわけだし…人類を救うために命がけで過去に行ったのは良いけど、本編に全然絡まないって、なんだかとても気の毒。

 以下余談。

 本作では、人類とミュータントは時に協力もするが、基本は敵対しているということがはっきりしているわけだが、この部分が丁寧に描かれていることが大きな強みとなっている。シンガー監督が作り上げたX-MENサーガの根幹部分は、特殊能力を持ってしまったミュータントと人類との確執にこそあるのだから。

 これは、マイノリティとして生きざるを得ない人間が、そのアイデンティティを勝ち得る物語となる。この前提があってこそ、本作はしっかり地に足が付いたものとなるのだ(実際にアメリカで起った公民権運動と歩調を合わせているところもある)。

 本作でもそれはさり気なくいくつも登場している。

 例えば、マグニートーはケネディ大統領暗殺の罪を被されているが、実はマグニートー自身はケネディを救おうとしたと本人が言っている。これはケネディが公民権運動を受け入れようとしていたことにも絡んでいて、多分この世界のケネディは(ミュータントを含めて)公民権を認めようとしていたがために殺され、そのスケープゴートとして、皮肉なことにケネディを救おうとしたマグニートーに罪を被せたということになる。マグニートーが捕まっているという事実だけでも、ちゃんと深いところで絡みがある(誰が本当にケネディを殺したのかは推測以外はできないけど)。

 そして1973年というのはヴェトナム戦争の停戦協定であるパリ和平協定が結ばれた年で、本作はその当日を舞台にしているのだが、ここで和平協定の文言が「人類は新たなる敵に対して手を結ぶ」と宣言されていた。これはすなわち「これからは人類ではない存在に対して戦っていこう」という宣言となっているわけで、「人類は手を組んでマイノリティであるミュータントを撲滅していく」。人類を統合するために新しい敵を作り出すという宣言になるわけだ。

 マイノリティを扱うというのは、ミュータントに限ってのことではない。様々な部分でマイノリティは存在するのだから、そういう存在が、国家によって弾かれ、敵とされていく過程をちゃんと見せようとしている。

 「X-MEN」という作品自体がアメリカで受け入れられてきた素地として、このマイノリティに対する視点があるからなのだろうし、だからこそ映画になってもきちんと映える作り方になっている。

(評価:★4)

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