技術を極めて自然になる、か。よくもここまで平凡なホームドラマを仕上げたものだ。

世の中への愚痴や嘆きがある、気がかりや悩み、心配事もある。だけども喜びもある、うれしさも幸せもある、希望もある。それらすべてを平凡なままとらえきる事がここまですごいものになるとは思わなかった。そしてこの点で小津安二郎の『東京物語』に比肩する映画だと思う。ただ本作の同時代性が、今において勝るか。

大都会の、これまた平凡な風景を見せるカメラワークは特徴がないだけにまさに技術が問われる。それでここまで構図を決めることができるのは、まさに職人芸というか、山田洋次の映画づくりの技術の粋をこらした一本だからか。

難を言えばかつての山田洋次の映画にはおなじみの渥美清や笠智衆がいない。橋爪功ではやや物足りないものもある。しかし一方で、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優という世代の良いところを伸ばしておぎなうだけの手腕がある。

その山田洋次の映画づくりのすべてが、見るものの心を打つことに傾けられた、そのための映画だと思う。