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[コメント] ファンタスティック Mr.FOX(2009/米=英)

ファンタスティック・・・!(再見してレビュー改稿)
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アンダーソンには、アニメ−ション監督は天職なのかもしれない。しかし、それはほとんど驚くべきことではないのだ。正しくは、「アンダーソンには、アニメーション監督”も”天職なのだ」と評価するべきなのだ。

画面の隅々までケレン味とユーモアを、というアンダーソンの偏執的こだわりが爆発・全開して、すさまじい情報量の画面に圧倒される。完璧にコントロールすれば(出来ればの話だが)実写を凌ぐというアニメーションの特質への理解は、既に「実写映画」における完璧な空間形成に歴然としてあらわれていたもので、全く驚くに値しない。アンダーソンのセンスが縦横無尽に暴れ回るのに格好の舞台ともいえる。

ドライなんだかウェットなんだか分からない変人ありきの家族観が相変わらずといえども嫌みなく、原作がキングオブブラックジョーク「ロアルド・ダール」の「寓話」であるという強力な後ろ盾はずるいといえばずるいのだが、まさに必然の出会い、鬼に金棒であり、ナンセンスなキャラ造形に必然性をまとわせた。格好の素材である。

ダージリン急行』の「スローモーション」によるアクション表現からアニメーションならではの「スピード」にシフトした姿勢が興味深い。空間の奥行きの演出については『ウォレスとグルミット』に遠く及ばないと思いきや、狂犬とのチェイスシーンや麦畑の疾走などに工夫が光る。また、カッティングや語りの要領の良さは特筆。

声優陣が完璧である。抑えられた声質の演技には、むしろ凄まじいほどのテンションが宿っている。特にカイリの声をあてたウォロダースキーの例がもっとも分かりやすいが、何よりジェイソン・シュワルツマン、メリル・ストリープの演技が神がかって聴こえるのは私だけではないだろう。「抑制する」ということは並大抵のことでは出来ないのである。これは、音楽において、フォルテの表現よりもピアニッシモの表現のほうが遙かに難しく、より優れた演奏者が弱音の表現において別次元のレベルを見せつけるのと同じことだ。「抑制する」とは「音を小さく」ということと単純に同義ではない。ここでは非常に高度な演技が展開されている(この点、吹き替え版では「抑制」を完全に履き違えているようだ。むしろこれで「原盤」のすばらしさが際立つという側面もあるのだが)。

また、「なかなおりする」「違いを認める」ということの明快な感動をアンダーソンをしのぐレベルで、嫌みなく与えてくれる人物を私は知らない。そして「動物たち」のアップカットと「涙」に徹底的に打ちのめされる。鉱床脇、下水道の夫婦の会話シークエンスの美しさときたら筆舌に尽くしがたい。アップカットとはこれだけ感動的なものだったのか。

・・・間違いなく最高傑作なんだが、2011年末現在で観てる人少ないですね。実に残念だ。

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● 「和解」「告白」のタイミングの妙といえば、これまでの作品群にも見られたもの。『ライフ・アクアティック』然り『ロイヤル・テネンバウムズ』然り『ダージリン急行』然り。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)わっこ[*] disjunctive[*] moot 赤い戦車[*]

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