[コメント] チェ 39歳 別れの手紙(2008/米=仏=スペイン)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
前『チェ 28歳の革命』同様物語はドキュメンタリーの様に進行する。
見ていて、おや?と思うシーンがあった。
ゲバラが変装しボリビアの首都ラパスから入国するシーンだ。
ラモンことゲバラは米州機構の人間ということで、
入国管理官が上役にどうしたものかと相談しに行く。
いいから通してやれと上役は適当な対応をし、
ゲバラは難なくボリビアに入国するのだ。
しかし、なぜそんな怪しまれそうな肩書きをわざわざ使って入国しなければならないのだろう?
実際、シーンの上では、入国管理官は上役にお伺いを立てているのだ。
別に観光でも商用でもいくらでも入国目的などあるのに…これは妙だなぁ。。。
気になった私はゲバラ日記を読んでみた。
ボリビア入国の部分はゲバラの日記そのものには書かれていなかったが、 訳者の記したゲバラ小伝に
“1966年11月7日禿頭の中年のウルグアイ人実業家ラモン・ベニテス・フェルナンデスになりすましたチェは…”
という記述がある。実業家として入国しているというのだ。
これが事実なら米州機構の人間として入国した、
という設定はこの映画独自の創作ということになる。
米州機構とは北中南米政治的問題を解決する機関でキューバも加盟しているのだが、
発足当初からアメリカが都合のいいように
中南米の諸地域を管理するための機関という側面があった。
頓挫している米州自由貿易地域構想と同じで、要はアメリカの恩恵第一のものだ。
ゲバラはこの米州機構のキューバ代表としてアメリカでの会議に参加し、
アメリカのアプローチを激しく批判している。
後にキューバ危機が発生し、キューバは事実上米州機構から除外されることになる。
2008年11月つまり去年。
キューバを米州機構に復帰させよ、
それをアメリカが認めないならアメリカ抜きで
米州機構に変わる中南米機構、会議を設けようと提唱した人物がいる。
他ならぬ、先住民から初当選した現ボリビア大統領モラレスであった。
あのシーンは中南米の長い苦難の歴史を一瞬にして強烈に映すアイロニーなのだ。
ドキュメンタリーの様に進行はしても、内容はドキュメンタリーでは当然ない。
明らかに意思のある、しかも意味ある態度によって作られた映画だと思う。
そしてやはり今、この時であることはとても重要なことのように思える。
黒人奴隷は初めてスペイン人がアフリカから中南米に連れてきた。
その数はアメリカよりも多い。
先住民は歴史と国土の隅に追いやられた。
民族が図らずもバラバラになった中南米諸国だったが
長い時間をかけてようやく独立した。
と思ったら、
今度はアメリカの帝国資本主義が各国を蹂躙したのである。
米領プエルトリコ出身の役者が、キューバで革命を起こし、ボリビアで死ぬアルゼンチン人を演じている。
やはりゲバラでもデルトロでもない。
この映画で描こうとしているのは、中南米諸国の歴史の-化身-であり、支配の影に抗う-光-だ。
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