[コメント] デトロイト・メタル・シティ(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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結局のところ、「原作ファンがその映画化作品を観に行く」という作業は、基本マイナスからのスタートだってことなんだろうな。「原作の空気を違わずに再現できているか」とか「原作のテーマを表現し切れているか」なんて評価軸は、原作を読んでなければ生まれないものだし。そして映画監督が表現者である以上、これらの軸は足枷に過ぎないことの方が多いんだろう。もちろん『ロード・オブ・ザ・リング』のようにそれを見事に乗り越えた作品もあるんだけど、今まではどちらかと言えば乗り越えられなかった、というより乗り越えようとしなかった作品の方が多かったように思う。こんなこと前から判っていたことなんだけど、今作はそれを強く感じさせられる映画だった。
ただそれを判った上でなお問いたいのだけれど、デスメタルにもフレンチポップにも等しく悪意を振りまいている原作「デトロイト・メタル・シティ」を映画化するにあたって、そこに「音楽と夢」のようなテーマを盛り込む意義はどこにあるんだろう。根岸君とクラウザーさんが乖離すればするほど面白くなっていく物語を映像化するのに、アイデンティティの合致を落としどころにして心をほっこりさせる意味がどこにあるんだろう。
今作はそれらを盛り込んだことで、単体として「良い映画」にはなっているんじゃないかと思う。だけど「夢を繋ぐ」みたいなテーマが見たいんだったら、他にもっと良い映画がいっぱいある。ていうか他の映画でいいんじゃないか。こういう暖かいテーマがないと映画にしちゃいけないみたいなことになってるんだろうか。原作がバカバカしいギャグの中に時折見せる「望まない世界でモンスターとして成長し君臨していく根岸君」のカタルシス。そこには心暖まるものなんて一つもないんだけれど、その代わり以上に心を揺さぶるものは確実にあった。ヤングアニマルなんて売れない雑誌がそこまで跳べているんだ。映画の在り方にだってもっと多様な価値観があっていい。
もちろん『デビルマン』とかに比べれば最高にしっかりと映画化した作品だと思う。原作を大事にしていることも充分伝わってくる。その上で商業的必然性から上記の展開を見せたことも判る。だから「良い映画」だとは思うんだけど、とは言え「みんなの夢のために歌うクラウザーさん」とかやっぱり興味ないんだよな。クラウザーさんはもっと人間が小さいんだ!
というわけで僕が原作ファンじゃなければきっと☆4だったんだと思う。クライマックスではそれなりにしんみりしたし、何より「SATSUGAI」のライブシーンにはかなり興奮した。「GO!TO!DMC!」とか思ったよ。
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