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[コメント] ブレイブ ワン(2007/米=豪)

ジョディ・フォスターはジョン・ウェイン的な個性派スターである。だからハリー・キャラハンばりのサングラス姿を待つまでもなく、彼女の行動は予見できるのだが、しかし、それにしても前半の微に入り細を穿つ感情表現は、この映画全体からしてもワンランク上のレベルに達している。
shiono

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オープニングのナレーションは、例えば『ダウン・バイ・ロー』のようなアメリカFM局のトラディショナルな空気を一瞬にして感じさせる知性的なものだ。フォスターの老成した語りの味わいにびっくり。街の喧騒を俯瞰する批評的な人物から、地面に横たわる犯罪被害者への転落も鮮烈で、ニール・ジョーダンのドラマチック演出が矢継ぎ早に炸裂する。昏睡から目覚めたフォスターは演出を凌駕するほどの名演を見せ、ストーリーを牽引し有無を言わさぬ感情の渦に観客を巻き込んでいく。

ファースト・キル、セカンド・キルまではアクシデントの側面もあり、その疾走感が持続しているのだが(コンビニを出た後、スウェットを脱いで黒いTシャツ姿になった彼女にはぞくぞくした)、そこから先は偏差値中の下のサスペンスになってしまう。車上の変態に行き会う必然性や暗黒街の顔役の暗殺、処刑人の文字が踊る紙面、ラジオ番組内での一般の声など、疑問符がつくエピソードが続く。タンクトップ姿の彼女は特殊部隊隊員みたいで失笑寸前だ。

だが前半の貯金をご破算にするほどではなく、テレンス・ハワードとの控えめな関係性も好印象のまま、クライマックスで単身敵地に潜入する革ジャケットのフォスターは、まさに『羊たちの沈黙』の再来で興奮した。警察犬のような飼い犬に引かれ捜索するショット、さあ逮捕してくれと両手を広げたキリストのポーズなどが実にさまになっている。

(K-ta Lさん、ハワードが言ったのは「合法的な銃」ではなく「登録された銃」ではなかったでしょうか。)

終幕は現代風のアレンジがあるものの、やはりフォスターが演じるかぎりは『許されざる者』の路線であり、どう行動するかという理念は揺るがないものとして存在していて、そこに至る過程をこと細かに描くことこそがこの映画のテーマといえるだろう。

(ハワードの説得に応じたのは倫理観だけではなく、彼との個人的な信頼関係に起因する感情による。自分と親しい人間のとる行為を、あなたはいかに感じどう判断するのか。)

こうした理念=精神性は男性的なもので、ショートカットノースリーブのフォスターは嵌まり役といえる。その上で女性的な繊細さと、僅かに見せる可愛らしい表情をもひっくるめて、とにかく彼女がとても魅力的であった。

ヲタク的余談:フォスター使用の銃器はKAHR K9というコンパクトな拳銃で、護身用としては順当なチョイスらしい。それはともかく、その無骨なデザインは男性的で、シルバーというカラーは正当性をイメージさせる。『アウト・オブ・サイト』でジェニファー・ロペスが父からプレゼントされたのはシグザウエルだったか、あれもステンレスだが優雅な曲線を持つロペスらしい宝飾品のようなアイテムだった。銃社会アメリカ、使われる銃もまた小道具として相応しいものであるのだ(トリュフォーの『アメリカの夜』にも監督が拳銃をチェックするシーンがあったね)。

(評価:★4)

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