[コメント] 松ヶ根乱射事件(2006/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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私はいま30歳で、山下敦弘監督と同学年です。ほかの人はどうかわからないけれど、私が30歳の人間として今思うことは、上の世代が言うほど今のニッポンは腐ってねえんじゃねーかということです。確かにオッサンたちが作り上げた社会は崩壊しつつあるものの、私たちはそれに順応して生きていくしかないんだし、順応する準備はできていたような気がするんです。
根本的に、私たちはすごく恵まれた世代だと思うんです。子供のころからなまじ色々なものを与えられてきたので、「享受してきた者」としての負い目というか引け目があって、何かに対して本気で怒るってことに違和感がある。この映画の中で主人公が父親に詰め寄りながら「おめえもやってんだろ?」と突っ込まれた場面では涙が出ました。やってるに決まってんだから。
幸か不幸か、私たちは10代〜20代という思春期に反抗の対象を持ち得なかった。『ビーバップ・ハイスクール』が不良少年を反逆分子ではなく個性的な1ジャンルにしてしまったのも一因かもしれません。そんなこんなで何の不満もない青春を送ってきたわけです。で、社会に出たら就職なんかぜんぜんなかったんだけど、実感としてはその状況しか知らないわけだから怒るにも対象がない。誰が悪いかわからんのだもの。そうやって日々あきらめつつ分相応の生活を送っていたら、あっという間に金銭的精神的な蓄えもないまま30になってしまった。私たちが子供のときに見ていた「30歳」はバブル絶頂のイケイケリーマンですから、予想(理想ではなく、あくまで予想)と現実のギャップはそりゃとんでもないわけです。そのギャップに理由を求めるとするなら、やはり高度経済成長というフェーズにおいてこの国を形成した団塊の世代やバブルを謳歌した新人類と呼ばれる世代に、なんとなく怒りをぶつけてみたくなる。だけど自分たちを「享受してきた者」たらしめた金というのは間違いなく高度経済成長やバブルの金なわけで、怒るに怒れない。
だから、行き場のない不満を感じると、怒り慣れてない私たちの世代はなんとなくこう思うんです。なんとなく。
「みんな死んじゃえばいいんだ」
世代的にはちょうど「キレる若者」なんて呼ばれ始めた私たちですが、実際若年層の凶悪犯罪が多かったわけではないし(むしろ今の50代が若かったころの方が断然多い)、ほとんどの人は彼のように虚空に向けて引き金を引くだけで凡庸な日常生活に戻っていける。とても「キレにくい・キレられない」世代なんだと思うわけです。そんな世代の精一杯の『乱射事件』を描いた映画。私は実にリアルに感じました。なんだかんだ言って、感謝してんですよ。上の世代に。たぶん。
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