[コメント] 幸せのちから(2006/米)
中盤までは私的に共感する箇所がありまくりだったもので、★4を献上しようと心に決めて鑑賞していた。
転職好き(?)だった私は一時的にせよ「無職」の恐怖を経験している。生活費といった金銭面の不安だけではない。男としての駄目さ加減が露呈する恐怖である。家族に餌を持って帰れないオスは自然界では無用の長物でしかない。さらに子供にとって尊厳のない父は憐れみの対象にすらなる。そうかつて『自転車泥棒』の無慈悲極まりない描写で私は大粒の涙を流したものだった。今回もこの「負け組」の男に涙を流す用意をしていた。
母と少年の関係と父と少年の関係はまったくもって異質である。『自転車泥棒』『山の郵便配達』・・・子はかつて母の乳房にしゃぶりついていた記憶から無常の愛で母にすがり愛し続ける。だが、父親に対しては尊敬の念を感じつつも、やがては同じ男として比較をするようになり、それがライバル的な関係にまで発展する場合もある。そしていつかは「老い」という逃げられない問題から、身体的には必ず父親を追い抜く事になるのである。
本作の父と子の描き方にはそういった深みはまったく感じられなかった。少年は単純に父を「最高のパパ」と言い、人形を拾いに行かなかった父を問責しない。何ひとつグチや駄々をこねない良い子なのだ。・・羨まし過ぎる。まるでペットの子犬みたいじゃないか?
そして映画は中盤以降、もうひとつのテーマである「就職問題」へとシフトしていってしまう。少年は文字通り保育所にお預けになってしまう。
ここから映画は面白さを加速するのだが、私は何だかシラケてきてしまう。ちょっと前までは同じ「負け組」だった男が成り上がっていく姿。私は急に現実へ引き戻される。ここで気づいた(って最初からそういう作品内容だった事は知ってたはずなのに)。これは「勝ち組」の中の最たるスーパーエリートの話だったんだよなって・・・
私なんかは面接を受ける所までいってやしない。「夢は勝ち取るんだ!」なんて台詞が胡散臭く聞こえてしまう駄目人間だ。私にとってはスーパーマンと同じようなヒーローのお話しだが、もしコレを妻が見たらどんな感想を持つのだろうか?こんなの滅多にあり得ない話と割り切ってくれるだろうか?それとも・・・
映画館には多くの夫婦がいた。アノ夫たちは一緒に鑑賞するなんて凄い度胸を持っている。主人公に匹敵するような人生の成功者なのだろうか、それとも夫として比較されるような映画を観て後悔しきりなのだろうか?
私は妻には絶対に見せない。
こんな事ならヴィスコンティの貴族映画でも見ていた方が良い。私は貴族にはなれないからね。
嗚呼!こうやって貴族にもスーパーマンにもなれない小市民は夢をあきらめていく自分を肯定していくんだよなぁ・・
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