[コメント] 風の中の子供(1937/日)
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清水宏が戦前にした代表的な仕事の一つ。 この作品には、横移動のキャメラやトリック撮影による時間の省略、樹木を意識したフレーミングなど清水宏の作品に良く見られる特徴を多数認めることが出来るが、この作品の評価に当たって重要なのはそういったものに向けられた視点ではなく、随所で現れてくる言葉に向けられた聴点であろう。
例えば、かくれんぼの際の「もういいかい」「まぁだだよ」の反復で子供が無邪気に遊んでいるところを表現しつつ、そこに徐々に泣き声を混ぜることで、兄弟と離れ離れになった子供だからこそ感じるであろう辛さを表現しているところは、吊り下げられた大人の衣服にしがみ付いて泣くという構図と相俟って秀逸である。 また、劇中繰り返される、主人公の少年が「アーアアー」とターザンの叫び声を真似るとどこからともなく子供達がワラワラと集まってくるシーンでは、「子供ってこういうところあるよね」という点で辛うじて現実的であるけれども,人間としての現実性をほぼ失い、幻想的な雰囲気を醸し出すことに成功しているし、主人公らの遊ぼうとの呼びかけに対する「あーとーでー」の返事は、父親が警察に連れて行かれたという背景事情を知る者に、残酷な響きを感じさせる。 そして、なんといっても至る所から響き渡るあの「お父さん」の連呼が生む多幸感には驚かされる。その間に挟まれる大人たちの子供達の声に向けられた笑顔のせいもあってか、観ているこちらまで笑顔になってしまうのである。
このように子供が日常的に使う言葉に、様々な意味を付加し、子供の乏しい語彙力を補ってあまりあるほどに増幅される豊かな表現力は、清水宏がその作品において時折見せる上手さによるものであって、この『風の中の子供』の中においては随所において効果的な形で散見された上手さであった。
ただ、大枠で同じ筋の上にある作品である、この二年後に撮られた『子供の四季』の方が、より緻密で豊かな作品といえるだろう。
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