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[コメント] ローズ・イン・タイドランド(2005/カナダ=英)

やっと本物のギリアムが帰ってきました。だけど、こんなの作って、次があるのでしょうか?それが心配です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 テリー=ギリアム。この監督の与えてくれる悪夢世界は私にとっては大変貴重なもの。現に今までも数多くの悪夢世界が彼によって紡ぎだされてきたし、それを観ることが私にとっての楽しみでもあった。

 だが、本当に久々に投入されたギリアムの新作『ブラザーズ・グリム』(2005)はその意味では思い切り期待はずれ。だって全然狂って見えなかった。こんな普通の作品をギリアムに作ってもらっては困る。まさかこの監督、これからこんな媚びたものを作り続けるんだろうか?と、ちょっと暗澹たる気分にされたものだが、この新作の前評判を聞いてすごく興味を持った。久々にギリアム製の悪夢世界に浸りこめるかもしれない。何せ内容が凄すぎて全国公開は不可能となったくらいだから。かなりわくわくして劇場へ…

 うむ。確かにこれは私の求めていたギリアム世界そのものだった。約2時間高密度状態に翻弄され続け。

 だが、なんというか…この作品は、私の期待の遥か上を行っていた。

 よもやここまでとんでもない作品を作るか?これじゃ悪夢そのものじゃないか。そりゃ確かに悪夢世界を見せられる事を望んでいたのは確かだけど、ここまで表現上やばいんじゃないか?と思えたのも本当に久々の体験。

 出てくるキャラにまともな人間が誰一人存在せず、やってることもテロ、ペドフィリア一歩手前、ネクロフィリア、近親偏愛(そのまんま『サイコ』(1960)もやってたし)…おいおい。お腹いっぱいなんてもんじゃない。完全に観てる間、ローズと共に夢の世界へと、しかもとびっきりの悪夢世界へと連れて行ってもらえた。

 これだよ。これがギリアムだよ。久々に本当にギリアムと出会えたって感じ。

 だが、これらかなりヤバイ描写も、実の話を言えば、子供にとっては本当に身近なものなんだろう。確かにジェライザ・ローズを取り巻く環境は褒められたものではないし、彼女自身それに強く影響も受けているのだが、彼女が内包する悪夢も又、想像力の旺盛な彼女にとっては大変身近なものであり、どんな悪いことが起こっても、現実から離れることでそれを受け止めてしまう。一方、その想像力は余計なこともしでかして自分や他人を危険に引き入れたりもする。確かにこうやって子供は処世術を学んでいくものだ。

 だが、当然それには適切な大人の介入が必要となる。

 ところが本作にはそう言う意味で“手本となる大人”が存在せず、観ている側としてはドキドキしっぱなしになる。一体いつ彼女の周りの世界が崩壊するのか?あるいは彼女は取り返しのつかないことをしでかすのではないか?

 そう言う意味では最後までドキドキしっぱなしで観ることができた。

 キャラに関してだが、前知識を持たずに観たため、スタッフロールでのけぞった。何だ?この豪華なキャスティングは?インディペンデント映画でこんな人達が出てるとは思いもしなかった。特にパパ役のブリッジスって…サングラス外さなかったから、全然分からなかった。勿論ほとんど全編に渡って出ずっぱりで、台詞の大半が独り言という主人公フェルランドの不思議な色気も特筆すべき。この年齢でこれだけの大役をこなせるとは、恐るべき子どもだよ(ギリアムもすっかり惚れ込んでるようだから、又登場してくるかもね)。

 描写があまりにもインモラルで、一見物語上の盛り上がりもないため、大半の人間にとっては不快感しか受け取れないだろう。だけど、精神的なベクトルがギリアムに向いている人間にとってはこの上ない快感をもたらしてくれるはず。極めて狭い範囲ではあるが、是非お薦めしたい作品でもある。ギリアムもこんな作品作ってしまっては、次回作作れるかどうか分からなくなるため、評価して欲しい作品である。

(評価:★5)

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