[コメント] インサイド・マン(2006/米)
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この映画は色々な意味でかなり“意外な”作品である。物語そのものもその通りだが、予告で観た時から妙に頭から離れない作品だった。予告で次々に登場するキャストはみんな私の好みの役者ばかり。それが何故か銀行強盗の話だという。そう言えばキャストの大部分は最早ハリウッドの重鎮なので、アクション作なんて珍しいな。と言う思いにさせられる。更に驚いたのが監督の名前を見て。
スパイク=リーと言えば、ハリウッドの監督にしては珍しいかなりしっとりした作風を持つ監督で、私好みの作品を作ってくれる。前作『25時』(2002)はその集大成かと思ってた(事実本作は4年ぶりの監督作品)。
この人がアクション?
途端に頭をよぎったのは、「外れる」。この監督がアクションに走るとは。いくらキャスティングが良くても、この監督はアクション畑の人じゃない。
…とはいえ、やっぱりどうしても興味は惹かれてしまうので、思い切って劇場に。勿論地雷踏む覚悟は持って。
…げ。
認識甘かった。あの予告でてっきりアクション作品とばかり思ってたら、全然違ってるじゃないか。リー監督、この素材を見事に自分のフィールドに持ち込んで作ってるよ。
私はリー監督の巧さは人物の丹念な描写と緊張感と含みのある対話にあると思ってる。具体的に言えば、お互いに一物腹に持っている者同士が話をすると言うシーンにこそこの監督の真骨頂があるわけだが、事前の丁寧な人物描写があるから、観てるこっちは、「ああ、この人はこういう風に考えてるんだろう」と思わされるので、会話を観ているのが大変楽しいのだ(この作品でもフォスター演じるマデリーンの会話シーンは「流石リー監督」と思わせるケレン味に溢れていてとても楽しい。あのシーンはにやにやしながら観ていたよ)。
その意味では今回の会話、特にラッセルとフレイジャーの会話は大変興味深い。ラッセルの描写は極力抑えられており、何の情報も無いが、対する受け身一方のフレイジャーに関しては数多くの情報が与えられている。観ているこちら側も終始フレイジャー側に立たざるを得ず、その焦りを共用するようになる。それで周到に張られた伏線に気付かず、作り手の術中にはまっていくことになる。これ又巧い人間描写だ。
それと、本作の巧さの一つは、キャラクタの掘り下げ方にもあるだろう。登場時間がどんな少なくとも、台詞のあるキャラは一様に時分自身の過去や主義主張を語っている。それこそそれがゲームの話であったり、嫁さんと仲が悪いとかであったり。そのような些細なことであっても、必ず自分の考えと周辺の影響が語られている。ほんの僅かなシーンでもその丁寧さがとても嬉しい所。
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