[コメント] 悪太郎(1963/日)
漱石系列の緩やかな幻想譚の世界
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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基本、丹精なモノクロ撮影のシネスコ映画。旧弊に抵抗する物語は『けんかえれじい』の北一輝のような記号もなく平均点だが、清純らしい外連がこれをよく活性化させている(今東光は新感覚派出身らしいから、馴染みがよかったのかも知れない)。
ときどきハッとさせられるジャンプカットがある。山内賢に道で遭遇した和泉雅子と田代みどりが脇道に隠れ、山内をやり過ごして道に戻る。まずここが素晴らしい。大正風俗と相まって漱石系列の緩やかな幻想譚の世界が開かれる。
寺の面前を4往復するふたりの対話場面はぎこちなさを表してリアリズム好み。決闘場面の横移動は力感溢れる。幽玄な障子の灯りなどの美術は、ここでは清順というよりも初タッグの木村威夫の成果だろう。豊田の『雁』が想起される(これが『関東無宿』の合成着色になると共作の成果になるのだろう)。
和泉別れの件がすごい。何の脈絡もなく西洋風の馬車にひとり乗って走り去るのだ。今ならギャグ・アニメの手法だが、ここでは出逢いの件などと相まって、謎の町で逢った謎の女という印象が深く刻まれる。うらびれた下宿で和泉を回想する山内という地味な収束が地味に思えないのは、清順の外連あったればこそだろう。
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