[コメント] 殺人の追憶(2003/韓国)
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事件前に警報と消灯と戸締まりがしつこいほど描写されていたことから、民主主義の過渡期、「無暗な軍事訓練が村にもたらした無人状態と暗闇」こそが下手人を産んだ真の犯人だった――冒頭の注釈はそのように主張していた。後はその深度と広がりだが、人によって解釈の分かれるところと思う。自分は、確かだとは思ったが、さほど新しいとも深いとも受け取らなかった。
確かだと思ったわけは、このことを台詞で役者に一度たりとも語らせなかったから。無論、それ以前に、下手人を特定しない、捏造しない、フィクションであることに開き直らないことが前提だった。それを踏まえた上での演出、ラストで少女のイノセンスに仮託する等の演出はどれも見事。
しかし、逆に言えば、刑事を始め誰も下手人に辿り着かない結末が必須だった、悪く言えば、辿り着かないことこそが予定調和だったということでもある。これは、突き詰めれば、「犯人は誰か?」に仮託された主張が作家の思想の枠をまったく出ていないということとリンクしている。
それはそれで良いのだが、思想の深度が言葉以上のものだったとは思えないというのが正直なところ。穿った見方をすれば、作り手の若さが垣間見えない映画ではなかった。たとえば、刑事の暴力と不祥事に時代というエクスキューズが必要だったとしても、それをコメディ・タッチでオブラートしてしまえばリアリティーが損なわれるばかりか、欺瞞にさえなりかねない。これでは、事件の副作用を被る者の苦しみ、たとえば事件がきっかけとなったいらぬ喧嘩でいらぬ負傷を負った高卒刑事の痛みなどが伝わってこない。また、キャラの書き込みだが、無暗に擦れた感じにしてしまう点に、ハリウッドへの意識という韓国映画自体の若さを感じた。
それでも、ラストが残す余韻は相当なものだった。見る価値があった。だからこそ、さらなる高次を想起してしまう。
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