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[コメント] 櫻の園(1990/日)

一線を嘘のように超えてしまうエロスな空気感が剣呑、共犯関係は夢の向こうに至る。例えば革命とはこんな場所から始まるのではないだろうか。職員室など敵方を描写しないのが巧みで閉鎖的な空間は濃密に自転し続ける。懐に隠した「暴動起こそうよ」。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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諦念を予感させるチェーホフの引用も秀逸。咲き誇る櫻、ラストで舞う櫻の花弁はこれに呼応しており、一瞬咲き誇る青春の感慨であると共に、三島的な錯綜する同性愛が花と散る極右の感慨を感じずにいられない。個人的には大嫌いな世界(LGBTは過去には強いられて隠微だった訳だがそれは全然望ましくない、オープンになるべきだ)だが、これほど密やかに繊細に描かれるとひとつの典型として認めざるを得ない。ヴィスコンティ―ばりに男装した格好いいつみきみほが立ち聞きして嫉妬を押さえる図など、インポテンツな三島の世界そのもので、かつこれほどの濃密さは三島原作作品には見当たらない。

本作は不況下で右傾化する本邦90年代の空気を予見し、更にその終息まで描写している。時代に選ばれた傑作と思う。

(追記) 戯曲「桜の園」における、つみきみほの役は学生トロフィーモフであるが、彼の新ロシアを希求する発言は検閲にかかり、チェーホフは妥協したとのこと。本編を読む限りは感じられないが、作者のメモには「この政治的要注意学生」「しょっちゅう流刑にあい、しょっちゅう大学を追われている」とあるらしい。彼と没落貴族との関係は、この映画に反響していると思われる。

(評価:★5)

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