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[あらすじ] カルラの歌(1996/英)

バス運転手の俺(ロバート・カーライル)ってダメ男さ。自分でも分ってるよ、そんなこと。スケベ心はある、でも困ってる人は女でなくても助けるぞ。ニカラグアって名前しか知らなかったけど悪いか。ふさぎこむカルラを、勤務中バスを私物化して湖に連れてったのはスコットランドの誇りを見せて気分を変えたかったんだ。カルラを国に帰らせた理由は自分でも分かんないけどサッチャーがテロの国だって言ってたし、行くしかないと思って…。でも、見ちゃったよ。どっちがテロだって!? インテリ左翼の宣伝で聞いたことはあったけどヒドすぎじゃん。サッチャーの嘘つきが荷担してるってことぐらい、無知な俺でもわかったぞ。それにしてもイギリスがカルラの国にまで害を及ぼしてたなんて――サッチャーの犠牲者は俺たちだけじゃなかったんだ……
Amandla!

*)reviewを読んでビンラディンの話を見に来た方は末尾の年表を見て下さい。

 バス運転手を馘になったジョージ(ロバート・カーライル)は、ニカラグア人カルラ(オヤンカ・カベサス)が自殺を思い詰めるほどのトラウマの原因とその深淵を、自分自身の目で見てしまいました。その結果、愛なんてものでカルラのトラウマを癒すことなんて無理だと悟ります。そして命を狙われているサンディニスタといっしょにこの国に住んでいたら、命はいくつあっても足りそうにありません。ならばダメ男のジョージはどうすればいい? あなたならどうします? ついにジョージはある決断をします……

 時代設定は1987年、舞台はスコットランドのグラスゴーと内戦末期のニカラグア。鬱屈したイギリス・グラスゴーの空気と、激戦下のニカラグアを対比すると何が見えてくるか? というお話。

スペイン語題名: La Canción de Carla

 ケン・ローチ(Ken Loach)が『大地と自由』(『Land and Freedom』)に引き続き、その翌年に発表した作品。昔話をしたかったわけではなかったということが、この作品を観ると、わかる仕掛けになっていますね。カルラが、実はサンディニスタへの支援を求める舞踏団の一員だった、というあたりからストーリーは急展開を見せます。

 前半は工業都市グラスゴーを舞台とし、後半は某国有名人オリヴァー・ノース海軍中佐の支援を受けた反政府ゲリラ・コントラがサンディニスタ政府軍相手に内戦をしていたころのニカラグアを舞台として描かれています(86年の国際司法裁判所ハーグ法廷は某国の介入がニカラグアへ国内問題への干渉であると判決)。当時イギリスはサッチャリズムが国内を席巻。失業者があふれ、ドラッグが蔓延。労働者、特に下層労働者・失業者には厭世観が漂うほど。実際ケン・ローチ自身も、80年代に作れた長編映画は 『まなざしと微笑み』"Looks and Smiles"(81) と 『祖国』"Fatherland"(86) の2本だけ。

 ケン・ローチは「共に一緒に生きようと決めた人たちが、その後どんな道筋を辿るのかという可能性を描いた映画だ」 (*1) と語っています。またインディー・ワイアーのインタヴューに「君たち報道人には何が起こっているのかを詳しく調べ、起こっていることを伝える責任がある。それこそ、メディアの媒体としてのあり方なんじゃないかね」(*2)と指摘(*3)。

 『トレインスポッティング』(96年、ダニー・ボイル監督)は、この映画を観るための予備知識として役に立つと思いますね。同時期の同じスコットランドを舞台にサッチャリズムがもたらした頽廃と貧困、つまり背景を描いていますから。こちらはスコットランドといってもグラスゴーではなく、エジンバラ。

 ちなみに、主演のロバート・カーライルはこの映画のためにバスの運転免許をとり「とても嬉しかった」と感想を述べたそうです。なぜなら、グラスゴーは彼が生まれ育った街だから。

 review も書きましたが、ネタバレですのでご注意あれ。

96年国際新ラテン・アメリカ映画祭非ラテンアメリカ監督賞(ハバナ)と96年ヴェネツィア映画祭イタリア上院議長賞を受賞。

*1)"It is a film about the possibilities of people when they decide they will be together."(和訳は太田昌国さん、だと思う)

*2)"You have a responsibility as a journalist, as a writer to scrutinize what's going on. To tell people what's going on. That's what the media is, isn't it? Mediums."(和訳はわたし)

*3)http://indiewire.com/film/interviews/int_Loach_Ken_980707.html

or

http://ofcs.rottentomatoes.com/movie-1084859/interviews.php

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【サンディニスタ政権略史】

1979 ソモサ独裁に反対する中道・左派の幅広い結集により、7月サンディニスタ革命=「歌う革命」が実現。

1981 某国の援助停止。

1982 反政府ゲリラ・コントラが某国の援助でホンジュラスから侵入。内戦が本格化。

1984 サンディニスタ政権、総選挙で国民の圧倒的な支持を得る。

1985 某国大統領はコントラを自由の戦士と表現。経済制裁を開始。議会もコントラに対して人道上の援助を承認。

1986 6月、国際司法裁判所は、某国の主張を全面的に退け「機雷封鎖,コントラ支援を含むニカラグアへの攻撃は,国連憲章をふくむ国際法に違反」とする判決を下すが、某国はコントラ支援をますますエスカレートさせる。11月、某国のイラン武器売却代金がニカラグアのコントラ・グループに流れていた事が発覚(イラン・コントラ事件)。支援資金の洗浄をしていたのは【サレム・ビンラディン】(【オサマ・ビンラディン】の兄)。

1987 【本作『カルラの歌』で描かれている時期】

1988 中米和平合意(87)に沿って暫定停戦合意成立。

1990 国連等による国際監視の下、大統領選挙を実施。サンディニスタは僅差で敗れ、国民野党連合(UNO)のヴィオレタ・チャモロが大統領に選出。コントラの武装解除で内戦終結。

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【参考】体験ニカラグア(click here to view this site をクリック)→http://library.thinkquest.org/17749/japanese.html

(評価:★5)

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