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[コメント] I am Sam アイ・アム・サム(2001/米)

私たちは、出尽くした物語の世界を生きている。斬新なアイデアなんて、世界中どこを探したってもうナイ。ただ元ネタをどう時代にコミットできるかのようにリアルに描くだけだ。元ネタ『クレイマー、クレイマー』と比較して。(クレイマーのネタバレあり)
Linus

**ネタバレ注意**
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この映画は、一見、現実問題を真摯にとり扱っているかのようにみえる。 しかし、この後に『クレイマー、クレイマー』を遅ればせながら観て 感じたことは、監督はこの物語を自分の物語として、世の中に出したかった んだな、とただそれだけ思った。

確かにこの映画に「あざとさ」が気になる人もいるだろう。 だって、これはリアルなようでいて、「クレイマー、クレイマー」 の二番煎じなんだもの。ただ、時代は変わったんだなぁ、 とつくづく思えた。

'79年の「クレイマー、クレイマー」ならば、父親は、仕事ができる 猛烈会社人間だったのに対し、「アイ・アム・サム」では、7才の知能しか 持たない知恵遅れの男性。これは世界的にみて、男性が弱くなって きたのかもしれないが、「アイ・アム・サム」を撮った女性監督のジェシー・ネルソンが、極端な設定にしたものの、男性全般を「ダメ男」として 見なしているように思えた。これは、男性の方、怒ってもいいことですよ(笑)。

で、母親の描き方。「クレイマー、クレイマー」では、自分で経済的 自立ができなく、虚しい気持ちをおさえることができず家を飛び出し、 やがて職業を手にして自立する職業婦人という設定にしている。 現在の日本もそうだが、この設定に共感する女性は沢山いるのでは ないか? お金が稼げないということは、旦那さんとの力関係において、 下手に出ないといけない状況にさせられるような気がするのだ。 私の母親世代、友人の一部と話していても、「お金が稼げないから 離婚しないで我慢している」という声を聞くのも事実である。

ただ私の友人などは、専業主婦で仕事をしていないが、子育てを 頑張っている。彼女が言うには「独身のキャリア・ウーマンは、専業主婦が 税金を払っていないと非難するけど、私たちは次世代の納税者を、 立派に育てているんだ」と言い放っていた。彼女は、旦那さんに下手に 出るどころか、凄い強気に生きてるし、彼女の言葉には、 一理あるなと感心した。

さて、「アイ・アム・サム」になるとこの母親というのが、2つに 別れる。子供を生む浮浪者女と、サムを擁護する敏腕女性弁護士。 子供を生む女はとっとと子供を捨ててトンズラ。そして弁護士は 仕事をしながら育児をするが、時間を作れず、子供とは気まずい 関係になっている。この設定は、まさにこれからの女性 が抱える問題だろう。あるいは、キャリアとお金を手に入れても(クレイ マーの母のその後)、結局は育児に失敗してしまう。 いつまでもたっても、人間は壁にぶつかるという結論なのかもしれない。

ストーリーに関係なく、面白いなと思ったのは、女性弁護士が「私は 負けを知らない女なの」という台詞である。なるほどなぁ、これが、 この映画を撮った女性監督(ジェシー・ネルソン)の本音かぁと 思ったのである。しかもこの気が強い女が、唯一心を許せる相手が ダメ男(サム)というのにも、変に納得した。

そして一番強烈だったのは、母親も父親も、子供を作りっぱなしで 面倒みないこと。「クレイマー、クレイマー」の時代だったら、 父も母も、とりあえず子供のことをまっ先に心配した。 でも、今の時代、面倒見ませ〜ん、と放棄しちゃう。開きなおっちゃう。

ということで、「クレイマー、クレイマー」と「アイ・アム・サム」を セットで見ると、時代の移り変わりがよくわかって面白い。 つうか、セットで見るべき映画。元ネタを上手く利用したなぁ、と 感心するし、時代の移り変わりってコワイとも思うのでした。

(評価:★4)

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