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[コメント] 魔女の宅急便(1989/日)

14歳、春を思う頃、不確かな飛躍の一瞬。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







飛翔する感覚の描出に長けているといわれる宮崎アニメの中でも、とくに一歩長じている一編。

宮崎アニメに於ける飛翔のカタルシスは、地上の重力から解放されるその一瞬に次ぐ一瞬の運動性の描出から生じてくる。少女の自立を主題としたこの映画では、そんな重力の呪縛と解放の背反のうえに生み出される宮崎アニメの飛翔表現が、小さな魔女の夢想と現実が交錯する物語によく適っていたのだと思う。

ラジオのスイッチを入れると流れ出してくる「ルージュの伝言」。それをバックに満月の中へと舞い上がっていく魔女のシルエット、そこへタイトル、「魔女の宅急便」。このOPから舞台となる街に降り立つまでは、まさに旅立ちの浮き立つような気分が充ちており、その分だけ地に足をつけた後の孤立したシラケタ現実が引き立ってくるように思う。初仕事の時の目も眩まんばかりな高さからの眺望や、スランプに陥った時の飛べそで飛べない微妙なカンジなども印象的。ラストの「優しさに包まれたなら」の挿入の軽快さも気持ち好い(*)。アニメーションとしては丁寧な仕事の為された秀作だと思う。

だが物語として考えると、映画としてなんとも無理に幕引きへと捻じ込まれてしまったかのようで勿体無い。少女の成長が小さなカタチでもしっかり結実したなぁと、そんな感慨がもてるような締め方になっていたなら真に傑作であったと思う。使い魔の声を聴くことが出来なくなったり(これは子供(夢想)の世界から大人(現実)の世界に一歩踏み出したことの代償の表現)、毛嫌いしてた女の子たちとエピローグでは仲良くなっていたり、細かいところで少女の成長を暗示してはいるが、物語としては無理な幕引きに物足りなさがあったと思う。

ちなみに、初めて見た時(13歳頃)はヒロインに惚れた。雨に濡れた魔女は妙なエロスを匂わせていた。こんなエロスも宮崎アニメの隠れた魅力かも。

*)荒井由美のオリジナル版では、ギターはもっとしっとりとしたスローテンポな入り方になっている。それを映画のように軽快にアレンジしたのは音楽演出として名を連ねている高畑勲なのだろうか。誰のものであるにせよ、これはよい配慮だったと思う。少なくとも自分には、それはその挿入の軽快さ故に記憶に残るものになった。

(評価:★3)

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