コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] すべてうまくいきますように(2021/仏=ベルギー)

これは「高瀬舟」ではない。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ほんの一ヶ月ほど前に『ラ・ブーム』を観たもんだから、ソフィー・マルソーが急に老けましてね。俺のタイムトラベル映画。その父親役のアンドレ・デュソリエって役者さんは、『私のように美しい娘』がデビューなんですって。準主役でしたよ。去年観た。50年タイムトラベルしちゃった。ついでに言うけど、シャーロット・ランプリングはどこまでが演技なんだろう?

この映画の原作はエマニュエル・ベルンエイムというフランスの作家だそうで、ソフィー・マルソー演じる主人公の作家エマニュエルが原作者自身に相当するようです。

Wikipedia(英語版)によれば・・・

エマニュエル・ベルンハイム(1955年12月 - 2017年5月10日)は、フランスの作家である。美術品収集家のアンドレ・ベルンハイムと彫刻家のクロード・ド・ソリアの娘であった。1993年、「Sa femme」でメディシス賞を受賞。フランソワ・オゾン監督の長編映画『スイミング・プール』、「5x2(『ふたりの5つの分かれ路』)」の脚本を手がける。1998年に小説「Vendredi soir」を書き、2002年にクレール・ドゥニ監督によって映画化された。また、ミシェル・ウエルベックの小説「プラットホーム」の映画化では、ウエルベックと仕事をした。2021年、彼女の回想録「Tout s'est bien passé」はオゾン監督により同名の映画化された。

故人なんですって。そしてオゾンと付き合いが長い。調べてよかった。これが分かって、観ている最中の不可解な謎が全て解けた気がします。

この映画は、安楽死をテーマとしたものというよりも、困難に直面したオゾンの友人の在りし日を描いた作品、というのが私の解釈です。

映画が始まって早々に、ソフィー・マルソーがコンタクトを装着するシーンがあるじゃないですか。あんなシーンいらねーじゃん。お誕生会で「サガンの初版本」をもらってワーイ(≧▽≦) ってシーンとかね。安楽死がテーマだったら不要なシーンだけど、「在りし日の友人の姿を描いた作品」と考えれば、このシーンに意味が出てきて納得できる。どちらかというと、ジェーン・スーの「生きるとか死ぬとか父親とか」の部類じゃないかと思うんです。

映画の中で、ソフィー・マルソーの旦那が「ルイス・ブニュエルの回顧上映」の話をしますね。義父も『忘れられた人々』の話なんかして。ブニュエルは「無神論者」であることを意識して、意図的に投入された話題だと思うんです。この手の安楽死や自死を巡る話は、倫理的な問題を含むのが普通です。倫理観との葛藤に悩むとかね。森鴎外「高瀬舟」ですな。 それが西欧人だったら、宗教に裏付けされた倫理観になるでしょう。ところがこの映画は、そこをスポッと抜いてしまう。最後に救急車の運転手が信心深いことを言い出しますが、イスラム系とアフリカ系で、おそらくキリスト教文化圏ではないんですね。

「無神論」を持ち出し、キリスト教的思想を排除して、倫理的問題をクリアしようとする姿勢に(法律的問題はあるけど)「オイオイ大丈夫か?」と思っていたんですが、「在りし日の友人を描いた作品」だと思うと、全部納得がいく。

むしろ、「いろいろ大変なこともあったけど、今となっては笑い話だね。天国で安らかにね」という話だと思ったら、いい話に思えてきます。

(2023.02.03 渋谷Bunkamuraル・シネマにて鑑賞)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。