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[コメント] 戦火(1958/米)

迎春閣の女将がまだおぼこ娘だった頃。元祖イエローフィーバーと見紛う異人種間ロマンス。こういう気恥ずかしいのは米国人同士は真顔でできない気もするが、文化と言葉の壁が恋の虜になった男女をなりふり構わなくするということで、成否は悉く両者の存在感にかかっている。二人の関係の進展の鍵となる場面はさすがに突き抜けている。ただ、リーホァの人となりに従順で窈窕なwaifu以上のものがあればと時代の制約を感じたりもした
袋のうさぎ

性交渉を仄めかす嵐の夜に寝室の窓ガラスを流れる雨滴と遠雷の綾をなす戸外の暗闇。フレーム外に押しやられたベッドの上での続きの代替表現だ。三か月の任期を終えて両親のいる故郷へ徒歩で戻ろうとする女を、ジープに乗った男が市門を抜けてはるばる郊外の野辺まで追いかけてゆくくだりの構成も素晴らしい(米軍基地とは別天地の昆明の陋巷の混沌、道中の田園風景の瑞々しさ。全体の時間配分もジャストミート)。畦道の傍らで追いつかれた女が振りむき際に見せる顔の翳り。その強張った表情のいじらしさ。他にも、はっとさせられたシーンが少なからずあった。個人的なハイライトは、中国の伝統的な婚礼衣装をまとったリーホァが、新郎の手で顔のベールを捲られてにっこりと微笑み返す瞬間が筆頭に来る。豪華絢爛な髪飾りやらイアリングやらネックレスやらの光彩離陸が、まぼろしの名画を収める額縁のように、人生一度の晴れ舞台に立って見違えるようになった花嫁の明眸皓歯を引き立てる。

二人が通訳なしには満足に意思伝達できない設定も、物語の展開上、独特の効果を上げている。思うように胸襟を開けないためにもどかしさが募る一方で、愛の成就のために制覇しなければならない道のりが再三にわたって思い出させられる。本作のロマンスは基本的に男目線だが、マチュアの一途でひたむきな思いが炙り出てくるように、彼の暮らしぶりを知る機会がたっぷりと差配される。それに応える女のほうは、しおらしく秋波を送るほかは、主人の言いつけに諾々と従い、下女の役割に徹するしかない。とりわけヤンキーばかりの米軍基地と外人バーの後では、英語を介さないリーホァの存在は、どこか夢のなかの恋人のようにおぼろげで、現実離れして見える。このあたりの、人生の車輅喧囂から遠く離れた場所にあるような女の後光がかった絵姿は、やはりボーゼイギだなあとつくづく思う。

7/10

(評価:★4)

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