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[コメント] 赤い影(1973/英=伊)

陽気なイタリアは他国から嫉妬される運命にあるらしく、本作もベニスを英国らしい湿気で塗り込めてしまった。展開されるのは象徴界と想像界の迷路のように入り組んだアラベスク。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭の父娘、地球は円いのになぜ氷は水平か、何とか云う巨大な湖の氷は湾曲している、という会話と、邸宅の庭の水溜り(事故後に別のアングルで存外巨大だったと示される)の氷割る息子と溺れる娘という展開とに、漠然とした繋がりが示される。それはよく判らないが繋がりがあるのは確からしい。ドナルド・サザーランドのステンドグラス製作の仕事、そこに血が伝う幻覚にもこれが繋がるらしい。

この人智を越えた繋がりというのが本作の基調だろう。サザーランドはこの事故で亡くした娘に、なぜか異国の地で殺されるという本作の筋書にも示されている。想像界では理解できないことが象徴界の理屈で完結してしまったという感想が残る。ポー的な精神分析的な、二重になった物語がある。

サザーランドは娘に復讐されたのだろうか。それはなぜだろう。端的に子供は親に復讐するものだから、なのかも知れない。子供は親を怨むもので、親は常に子供に罪悪感を感じているのかも知れない。少なくともサザーランドはこの罪悪感で自ら殺される道を選んだように見える。

サザーランドは霊感があり、娘の事故死も遠隔で察知できた。この能力がもう少し彼を苦しめる中盤があってもいいように思われた。しかし、「霊感を拒否しているのは呪いだから」という老婦人の妻への説明はなるほどと思わされた。

妻のジュリー・クリスティに、死んだ娘は幸せよと教えるベニスの老婦人ふたり。最初の出会いはレストランでのいざこざ(サザーランドが窓を開けたために老婦人の目に塵が入った)で、老婦人は気を悪くしていた。だからこの物語は、全部がこの不機嫌の意趣返しとも取れる。老婦人ふたりが大笑いするジャンプカットが悪戯のように挿入される。

墜落の予感しかない教会での高所作業、ロープに掴まって助かるサザーランドを見て、なぜか残念そうな神父が印象的。ベニスの川の水死体引上げで舟が渋滞、警察が交通整理という比較的普通の描写が面白い。自分の葬式を先に見てしまった舟ですれ違う妻らの喪服姿に繋がる。

エクソシスト』と同年の作品。教会や霊媒の主題は影響関係があったのだろうか。この時代らしい荒々しい編集の技が冴えている。赤い赤いレインコート(プラスティック・レッドと呼ばれる)が秀逸で、妻のブーツに接続され、ベニスの幻覚に直結する。

(評価:★5)

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