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[コメント] 邪魔者は殺せ(1947/英)

昔テレビで観た記憶が刻々と甦った。全部覚えていた。小学生の頃の自分がジェームズ・メイソンとともに夜の闇に潜んでいるのを発見した。こういう体験もあるものなのだ。いい映画でよかった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭の銀行強盗の件も優れモノで、トラブルあって仲間割れ、車から振り落とされて逃走。相当に銀行からは離れたはずなのに、いつまでも遠くで銀行の非常ベルが鳴っているのが聞こえるのがすごい。バラバラになった逃走劇。そんな間を縫って、街灯と石壁と子供たちでもって突然にキリコ風のシュールレアリズムが描かれる。

爆弾から逃れて最初に隠れ家にした煉瓦造りの空き家、あれは何なんだろう。そこに子供のボールが転がり込む。子供たちの空き地から転がり出たのを、へんな男が抜群のタイミングで蹴り上げるのだった。このリズミカルなカット割が素晴らしい。そして潜んだメイソン、カップルが逢引にやってきて、娘がふと奥を見て「誰かいる」と静かに云う。このサスペンス。

そして路上で怪我したメイソンを自宅へ担ぎ込んだ女ふたり、お尋ね者だと判って深刻な会話が交わされ、出てゆくメイソンの忘れていった拳銃を溝に捨て、帽子は背後から被せる。この無言のショット、庶民に何ができるかを無言で描いて秀逸だった。その他、窓や電話ボックスからメイソンを見つめ、すれ違う庶民の姿が印象的に描かれている。

あと、他の銀行強盗は信用した婦人を尋ねて裏切られて警察に売られるのだが、警察が訪れるだろうタイミングで婦人は上手いこと云って彼等を外へ出し、最後にもうバレてもいいやとばかりに扉をおしくら饅頭の要領でえいと閉めて連中を外へ追い出してしまう。この酷薄な一連の件も特に印象深い。

後半はパンタグラフ付の二階建路面電車の格闘が見事なタッチで(これもセットなんだろうか)、鳥好きの老人F・J・マコーミックが狂言回しになり好演、アパートの階段の天井から雨漏りならぬ雪漏りがしているショットがとても美しく、尖塔への仰角というアングルは画家ロバート・ニュートンの部屋での手術でも展開される。キャスリーン・ライアンと一緒に射殺されるラストは転がりかけたものが止まらなかったような印象が残る。

北アイルランド問題は複雑だが、メイソンたちは神父を頼りにするカトリック。作劇は『第三の男』もそうだが、テロ集団への肩入れをせず一歩引いており、よく云えばクール、悪く云えばネタの疎遠さがある。そこはこの監督の作家性なのだろう。

(評価:★5)

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