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[コメント] 華麗なる一族(1974/日)

話は駆け足で撮影美術も凡だが、大企業の悪巧み総覧の趣で方々に黒い笑いがある。昔はこんなTVドラマがたくさんあったものだ。ヤマサツ流悪役天国は京マチ子西村晃が体現し、無言で鼓叩く月丘夢路のヴァルネラビリティが強く印象に残る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







金融再編成、銀行再編合併拡大の暗躍話。中堅の阪神銀行頭取の佐分利信はいろいろ無茶やってこれに成功するが、最後は大蔵大臣小沢栄太郎の更なる合併案で吸収され犠牲になると匂わされて終わる。本作の暗躍はその後、80年代後半の企業世界時価総額ランキングトップテンのうち5社は日本の銀行だったという「成果」をあげたことになる。

佐分利は息子で阪神特殊鋼専務の仲代達矢を、父(仲代の二役)と妻月丘の子供ではないかと確信してイジメている。セピア色の回想での佐分利の若作りが素晴らしい。

阪神特殊鋼は帝国製鉄の銑鉄なしに運営できない。自主生産のための溶鉱炉建設が宿願だが250憶円かかる。メインバンクの佐分利が満額貸してくれないので、仲代は友人で日銀の二谷英明が天下った大同銀行を頼る。大蔵省と日銀はいつもポスト争い。

ドル下落、円切り上げ(東証大暴落史上最高の260円余という新聞記事が映る)、大蔵省も金融引き締めで日本の輸出産業は大打撃。阪神特殊鋼の米取引先は輸出ストップ通告。仲代の父で阪神銀行頭取の佐分利信は溶鉱炉建設に見せかけ融資、というのは帳簿上貸すは貸すのだが銀行から引き出し不可というもので違法行為。その分を合併を企む大同銀行に融資させて傾かせて合併の腹で、大同銀行で日銀の二谷を嫌がっている叩き上げの専務西村晃を抱きこむ。

溶鉱炉は突貫工事がたたり爆破事故。この撮影はえらく陳腐だ。長期開発銀行の滝沢修が怒って会社更生法適用。佐分利は大蔵大臣の小沢栄太郎に根回し、小沢は「禅問答」で合併に政治献金を仄めかす。阪神特殊鋼は会社更生法で下請けの取り立て騒ぎ。

このように佐分利は野望のために息子の仲代を凹ましている。前半終わりの仲代が猟銃で佐分利を誤射する件はフォローがないが、これは仲代の悪夢として見るべきなのだろう。仲代はトリプルベッドの罰を受ける母の月丘夢路とお爺さんとの子供だからでしょうと出生の秘密を漏らして佐分利が狂って親子喧嘩。

仲代は工場の役人でもある佐分利を特別背任罪で告訴。会社へ破産管財人として佐分利が吸収させようとする帝国製鉄の専務神山繁が乗り込んで来て仲代を馘首して告訴取下げ。破産管財人って弁護士がなるものだと思っていた。

仲代は爆弾男(いましたね)と呼ばれる社民党代議士大滝秀治に証拠書類を提出。しかしこの書類は与野党トップで政治の取引材料にされ、追及しない代わりに「工業大資本の抜け穴をつくるための」公害訴訟法案通過の取引。佐橋総理役の伊東光一は佐藤総理に無茶苦茶似ていて笑える。社民党委員長の嵯峨善兵と「野党のなかでは君の党を一番信用しているよ」「我が党だけですよ国民の利益のために戦っとるのは」。ふたり仲良くガハハと笑い合うショットは共産党ヤマサツの社会党批判なのだろう。

仲代は自殺。血液型調べてやっぱり佐分利の子だったと判明して一家は衝撃を受けているが、そんなもの生前に調べられるだろう。これは物語上の欠陥だった。

合併して東洋銀行。しかし大蔵大臣の小沢は田宮二郎を次期銀行局長に指名し、銀行合併を続けてワールドバンクをつくるのだ、更なる大型合併を指示する。合併祝賀会がストップモーションになり銃声が聞こえて終わる。

佐分利の寝室に三つ並んでいるベッド。仲代は「ますます爺さん似になってきたな」と月丘をいたぶる佐分利。ふたりのベッドに京マチ子が登場して反対側にベッドイン。厭がる月丘に「久し振りじゃないか三人は」ゲヘヘと笑う佐分利が本作の揺るがせにできないベストショット。再見だがここだけ覚えていた。家庭教師の京マチ子は銀行合併でさっさと棄てられる。悪役は全員栄えた後に滅ぶのだった。

佐分利の娘の香川京子は官僚の亭主田宮二郎との結婚を恨んで「あの人は血の通っていない冷血動物ですもの」「閨閥結婚は惨めだわ」と漏らす。総理の甥との見合いに反対して娘の酒井和歌子は母や姉のような「砂漠のような生き方はしたくないんです」。もの凄い云いようだ。この延長線上に月丘夢路の暗い人生があるのだろう。

脇筋は泣かせるものがある。佐分利に預金獲得のはっぱをかけられた支店長の高原駿雄は用地買収成金の花沢徳衛の処へ日参(銀行からの贈答品が山と積まれている)、田植え手伝ってひっくり返ったりして、預金の約束を確認に行くと、他行の工員が娘の婿に来るからそっちに回したとにべもなく断られ雨戸閉められ、人身御供だと怒る部下を耐えなきゃねと慰めて、銀行での会議で心臓発作で倒れる。「頭取、五億円達成できました」「……死んだ」。

普通の銀行員はこんななのだと知る。西村晃の部下の小林昭二が裏工作思いとどまれとふたりで「毎日毎日、貯金箱抱えて浅草や品川の商店街回って、一銭二銭の金まで集めたあの苦しみ」と回想し嘆願する件もいい。銀行の草創期ってのはそんなものなのかと啓蒙された。

(評価:★3)

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