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[コメント] わが恋せし乙女(1946/日)

カルメン』の佐野周二や『二十四の瞳』の田村高廣など、木下は負傷した帰還兵を敬愛をもって繰り返し描いたが、本作の増田順二はその最初の造形となるのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「びっこ」の「かたわ」が妹の相手と聞いて不服だった原保美は、彼の姿を一目見た途端に前言を翻し、思わず彼の傍に駆け寄り、戦地を尋ね、同情を示す。そして自由の利かない片足を摩りながらこれが生きている証拠だと語る増田に、観客とともに胸打たれる。

親子三人の関係に四人目が加わるにあたって、予想される軋轢は消え去ってしまい、原は増田を積極的に迎え入れる。戦後とは、帰還した戦友のネットワークが張り巡らされた時代でもあったのだ。本作はこれが色濃く反映された作品であり、何もないところから戦後民主主義が始まったのではないことを示している。もちろんそのネットワークにはグロテスクなものも山ほどあっただろうが、そのなかから上記のような優れた逸話を掬い上げたのが木下の才能である。これは昔話ではないのであって、例えば全国に避難した福島の被災者に関して製作者は木下ほどの才覚を示せるか、という話だと思う。蛇足ですが。

本作の井川邦子は平凡な容姿ゆえに快活を表現して適役だが、その子役が、おかっぱで馬車に乗ってお手手つないでなど歌って、とても可愛い。三味線を弾く旅芸人の後ろを付いていく断片もとてもいい。この子にもう少し活躍してほしかったと思うのだが、調べると配役は何と男の子であった(河野正昭)。これには弱った。

(評価:★4)

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