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[コメント] 裸の大将(1958/日)

癖になる話法の発明という喜劇のひとつの理想を見事達成。「人は普通に死んだら仏様になって、戦争で死んだら神様になるんだな」。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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豪華助演陣のなか、終盤の記者役でハナ肇がワンカット登場するのがとても興味深い。50年代の小林桂樹から60年代のハナ肇へ、喜劇俳優の引き継ぎのニュアンスがある。ふたりとも、昔は町中にいた知的障碍者を演じた訳だ。

本作で強調されるのはしかし、ハナ的な逞しさとは対照的な、社会の冷笑の下どうにか生き延びる小林の頼りなさだった。彼が雇われるのは料理屋や弁当屋が忙しいからでしかない。彼は飄々としているが、そんなことができるのは自尊心をどこかで切り捨てたからだ。

この切り捨てはギリシャの世捨て人系の哲人や仏教の高僧を想起させるものがある。「どうして自衛隊は戦争しないのに鉄砲持っているのかな」などの警句はそこから吐かれるものだ。地獄巡りの道化映画として筋が通っている(絵画の天才という側面を軽視するのも正しいと思われる)。

しかし、これを一般の知的障碍者に求める訳には勿論いかない。いまの政治は障碍者を(予算不足から)「地域と共生」に戻そうとしているが、出てくる結果は本作のような世間の冷笑だろう、とだいたいの目星は付くのであり、その点本作は予見的でもある。

三益愛子の母ものの番外編として観られる味があるのがいい。公衆便所住まいの件は秀逸な美術とも相まって数ある焼け跡生活描写のなかでも記憶に残る悲喜劇だった。私的ベストショットは小林が芋に続いて人参をマトリョーシカ人形みたく並べて刻む件。

(評価:★4)

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