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[コメント] 脱出(1945/米)

限界状況をギャグにするボギーとバコールのコメディセンスの麗しさよ
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







初めて観た。『三つ数えろ』みたく物語が飛ばしまくられるのだろうと想定していのだがさにあらず、とても丁寧な話法で愉しめた。話の要点は次のシークエンスで必ず復習され、膨らまされ、しばしばギャグにされる。

ホテルの向かい合った部屋における酒瓶の押し付け合いなど、ほとんどサイレント喜劇のノリだ。いつ国を出たと聞かれて「もうそんな段階?」。「何を怒っているんだ」「あんたのことよ」「よく云われるんだ」。有名な「口笛の吹き方知っている? 唇を突き出して、吹くのよ(and blowと巻き舌)」続いてひとり口笛の練習するボギー。こんなケッサクがあと数ダースもある。バコールにツッパらせてボギーがお道化るという呼吸に一連のリズムがあり映画を活気づけている。ベストショットはバコールの最後の腰振りダンス。これにはシビレた。いまから脱出なのに、よくそんな余裕があるものである(戦勝国側の余裕とも見れるが、それは観点が皮肉に過ぎるだろう)。

本作はキートンの無表情を活用した、しかし彼の自虐とは真逆の方法で撮られた、優れたコメディ映画だと思う。両名とも気障と云えばまあ気障の極みだが、それが厭味にならないのはリアルタイムの政治状況に取材しているからだろう(原作の舞台はキューバ、フランスに取材したのはフォークナー)。レジスタンスと行動を共にするには、正義の味方になるには、このふたりみたいに自分に自信がないとできないんだぜ、お前らにできるかい、と映画は観客を挑発している。

だからこそ、ボギーのレジスタンス共感への傾斜でもって物語の流れをつくるのも(初歩的な技法だけど)気持ちよくハマっている。ただ、ウォルター・ブレナンは好感度大なのだけれど、彼のコメディはボギー・バコールとは質が違うため、全体から浮いてしまっている憾みがある。ホギー・カーマイケルの映像は初めて観て、あまりにも格好いいので驚いた。彼の露出も多いがオマケとして愉しめる。ただラストショットまで奪ってしまうのはどうなんだろうとは思うけど。

(評価:★4)

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