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[コメント] 億万長者(1954/日)

とんでもない政治パロディで、ひたすらその密着度において優れており、笑うに笑えない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







フランク・キャプラのヒューマン・ドラマのパロディだろう。改心して脱税暴露する木村功はジェームズ・スチュワートの役回り。本家ならクライマックスの行政監察委員会で正義感が見事勝利するだろう処を、木村の告白は爆笑の渦に巻き込まれる。貧乏を嘆く岡田英次は二度、共産党と間違われる。

いろんなアングルで国会議事堂が見える。産児制限(人口過剰)の主題を扱うのは川島『愛のお荷物』より一年早い。税金は皆さんのお役に立っているという木村功の科白に続いて描写される自衛隊の行進は同年施行の自衛隊法を揶揄っているし、伊藤雄之助の「記憶がございません」に至っては時代を先取りしている。最後にマグロを喰って死ぬのは、製作同年のビキニ水爆実験、第五福竜丸事件(冒頭の演説で久我美子は「ビキニのマグロ」と云い間違える)による。

原爆爆破のラストシーンが圧力で削除されたらしく(ソール・バスのパロディのようなタイトルに監督名が出てこないのはこの抗議とのこと)、多分ここで魅力的だが断片的だった久我の来歴も肉付けされただろうし、信欣三が撮った想像の家族写真も使われただろう(想像だけど、タイトルも触られたのじゃないか)。虚しい話だが、このラストでも優秀だと思う。子沢山一家の最期は生々しく強烈、人口過剰と原爆が共存している。

汚職と政治家は今も昔もおんなじ。税務署を標的にする本筋は容赦がなく、これも含めてさあ報道の自由度の低下した現代で同じものが撮れるだろうかと思うと心許ない。税務署の書類の山とか信欣三の家の傾き加減とか、美術も素晴らしい。早口合戦はさすがの山田五十鈴が圧勝、彼女のこのギャグは数多いが、本作はその初期だろうか。高橋豊子も効いている。個人的には左幸子が印象薄いのが残念。

(評価:★5)

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