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[コメント] 男たちの大和 YAMATO(2005/日)

存外に反戦映画であり、『陸軍残酷物語』でキャリアを始めた佐藤純弥に変節が認められないのは嬉しいことだが、いかにも弱い。半世紀前の阿部『戦艦大和』のほうがずっといい。ローマ字のYAMATOは日米同盟を表象するのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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なぜか夜中に機関砲の撃ち方教える中村獅童の「死んだら戦えん。生き抜くために戦うんだ」とか、松山の母白石加代子の「死んだらいけんよ」という発言は、リアリズムとしてはあり得なかっただろう(中村は『人間の条件』の梶に近かろう。超えることは出来なかったが)。年少兵たちは「死ぬ覚悟はできております」と声を揃えるが、反町隆史の「万が一、総員退去の命令が出たら逃げろ」は実現する。「生きろと云っているのが判らんのか」と松山ケンイチは中村に甲板に突き落とされ、傾斜した艦から海にずり落ちる。中村は戦後も「卑怯者と云われてもいい」と戦友の想いを伝えるために生き続けたと鈴木京香は(松山晩年の)仲代達矢に伝える。それは美しいことだが、しかし彼等の戦後がどんなだったのかどんな具合に戦友の想いを伝えたのか、それが見えないのが決定的に弱い。それを描くのが必要ではないのだろうか。

上官は軽量級が揃えられ、これは若年兵重視のためだろうか、軽い俳優しかいないのか。渡哲也は映画遺作の由。「俺たちは日本が新しく目覚めるために、その先駆けとして散る。正に本望じゃないか」と語るのが長島一茂では弱ってしまう。この吉田満節、本作では薩英・馬関戦争で学んだ薩長が新式の武器を輸入して幕府を倒した、精神主義ではなく進歩が大事という文脈であり、戦争するなら物資を揃えてからにせよという論旨であり、別に戦争放棄の新日本を予言していたのではなかった。

引き取られた鈴木京香が戦災孤児、舟出す仲代が死ぬ間際なんて設定がいかにも下らないし、最後と判っている兵たちの上陸の件、同級生の蒼井優(モンペ姿は素晴らしい)とか寺島しのぶの芸者とか、つまみ喰いの泣かせ芝居が林立しており弱ってしまう。出撃前日に年少兵たちに甲板から「母ちゃん」と叫ばせまくるのは新しく、やり過ぎに近いが、この居た堪れなさこそが厭戦映画なのかも知れない。松山がひとり帰ってきて御免なさいと死んだ戦友の余貴美子に土下座する件は辛いパッションがあった。

本作はもっぱら立派なセットを組んだことで記憶される映画だろう。爆発があると同時に血しぶきがあがり、スタントが宙に飛び上がり、手足がもげるという描写が繰り返され、スプラッターホラーに近い。佐藤純弥がこれを反戦映画として描いたのは本当だろうが、しかし今日日の映画ヲタクはこれを愉しく消費するとは思いついていないのだろうか。反戦映画は常に好戦映画に反転する。男女混声合唱団がワーワー唄うワンパターンは映画を白けさせる。

デカい大和。戦局逼迫にも関わらず甲板で柔道しているのもリアルなんだろう。戦争に行った私の父親は、大和では甲板を自転車で往来したらしいと云っていたが、その描写は残念ながらなかった。大和の展示館を見学した鈴木京香は沈没地へ向かうが、その途中、補給艦のインド洋からの帰還式を余りにも偶然に見てしまう。いまの自衛隊の活動は賛成ですよと云っているのだろう。長渕剛嫌い。終戦60周年記念作品、同年邦画興行収入1位作品。

(評価:★2)

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