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[コメント] 透明人間(2020/米=豪)

この作品の深みはもはや単なるホラーの域を超えてきたなと思います。
deenity

**ネタバレ注意**
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ようやく見に行ってきました。好評を耳にしていたので期待も高まっていましたが、それを裏切らない出来でしたし、予習としてリー・ワネル監督の『アップグレード』も見ましたが、それもホームラン級の当たりで、本作はもちろん文句なしに満点評価の作品でしたが、リー・ワネルにブラムハウスには恐るべしと言ったところですね。

本作は実にシンプルな邦題がつけられており、しかしまた透明だからこそ見えず、ある種のミスリードかのように感じさせるのは上手いところだと思います。

死んだはずの男の存在を徐々に感じつつあるセシリアは、あの男ならそれくらいのことをやりかねないと疑い始めます。この辺りから何もない空間へのカットが入り始めますが、何かありそうだという不安感と結局何もないことの繰り返しをすることで、透明人間という架空の妄想を作り上げているだけなのではないか、という思いがよぎるわけですね。

そりゃこのタイトルで何もないことはないんでしょうが、もしかしたらこのセシリアがおかしいのかもしれない。 この思いはごく自然なものでしょうし、これこそ本作の主題でもあると思いますが、透明という演出を上手く表現していたと思います。

その上で、透明だからこその急なホラー演出は見事。初めて存在を認識できるシーンの恐怖は思わずドキッとさせられます。音響も素晴らしくて、ホラー映画としての質の高さも体感できますし、これは劇場で見るべきですね。というか『ゲット・アウト』でお馴染みのブラムハウスのホラー映画の安定感はなんなんでしょうね。

さて、本作の主題はセシリアですね。被害を受けている女性。しかし実際のところ、その事実を認識することはできない。世間から、身近な人からも信じてもらえない。狂ってるとさえ捉えられ、精神を病んでいるとまで思われてしまう。この辺りはエリザベス・モスの好演でまさにやばい女性と紙一重の演技を見せてくれましたが、ある選択肢を提示された時に彼女は自分が信じたことを貫き、そして行動に移します。 それが結果的に社会に認められていく流れになるというのは、ある種のメッセージ的な部分もあるわけですが、ここで終わっていたなら本作はただの良作でしかなく、この異常なまでに清々しく、それと同時に気持ちの悪い思いにさせられたのはラストのくだりですね。

彼女は自分の思いを貫き通し、そして完全勝利とも言えるラストを飾ります。まあ復讐劇として捉えるのならスッキリと清々しいのですが、問題は本作がそもそもセシリアの視点でしか語られていなかったというところですね。 冒頭の窓ガラスのシーンこそあれど、それ以降のところはセシリアの言葉を信じるしかなく、確かに「サプライズ」発言から限りなく怪しくはあるものの、正直グレーゾーンであり、実際に彼がどのような人物であったかを知る由は一切ないわけです。 事実を知らず、根拠がないのに断片的な情報だけで物事を捉えることは危険であり、これは昨今問題視されていることでもありますが、今までのセシリアの視点に今度は我々観客がそこに置かれることになりますね。本作で言えばラストのジェームズの視点ですね。セシリアに起きたことをセシリア自身しか知れなかったように、二人の間に起きたことも、二人にしかわからないわけで、それをどうこう判断することなど非常に難しい。だからどちらが善悪か決めることは危険なことである。そういった社会的メッセージもラストに投げかけてくれる辺り、これは単なるホラー作品以上に深みのある作品だと思いました。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ペンクロフ[*]

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