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[コメント] アバウト・シュミット(2002/米)

劇場公開時に続き、2度目の鑑賞。
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
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1度目の鑑賞時には、「ジャック・ニコルソンが、出会ったばかりの中年女性に突然キスする」「ジャック・ニコルソンが、小うるさい妻の死後、手放しで小便をまき散らす」「ジャック・ニコルソンが、援助している少年からの贈り物に感動して涙を流す」 といった三つのシーンが強烈に記憶に残っており、ジャック・ニコルソンという性格俳優の奇天烈なイメージを逆手に取った、主人公ウォーレン・シュミットのキャラクター造形が実に印象的だった。

さて、あれから10年の時を経ての再鑑賞である。まだまだ遠く及ばないが、66歳のシュミットに少し近づいた分、劇中のエピソードに非常にシンパシーを感じるようになったことは確かだ。

空虚な人生への絶望と思い通りにならない家族への失望には、僕自身、身に覚えがないでは無い。いや、むしろ最近になってはっきりと自覚し始めたフィーリングであり、“人生の苦味”を避けては通れない年齢に差し掛かった自分をはっきりと認識した。

そういう意味では、歌謡曲のようなペーソスとお茶のような渋みのきいた作品であり、 圧倒的にオーバー・サーティー向けの小品である。

逆に、抑制がききすぎていて盛り上がりに欠ける感は否めない。『ハイスクール白書』におけるリース・ウィザースプーンのような強烈なキャラクターも登場しなければ(怪優キャシー・ベイツでさえギリギリ“普通”の枠を出ないように演じている)、『サイドウェイ』のような諧謔味溢れるアクションシーンもない。

終始、ジャック・ニコルソンの虚ろな目のようなトーンで物語が進行していく。ぼんやりしている。作品全体の独特なリズムはとても魅力的だし、編集もタイトだけれど、演出が全体的にペーソスに寄りすぎ。諧謔味のある台詞やシーンを追加してテンポを出せば、『サイドウェイ』級の名作になったのではないか。

ジャック・ニコルソンの演技がとにかくシンプルでキャラクターに実在感を与えているし、キャシー・ベイツを筆頭にした娘婿の家族のホワイトトラッシュぶりも類型的で程良くウザイ。ラストも過剰に観客の涙腺を刺激しない節度があり、爽やかで好感がもてる。それだけに、中盤の展開にもうひとつ軽やかさが欲しかった。

(補記1) 話は変わるが、アレクサンダー・ペイン監督の作品は、主人公のキャラクタリゼーションが完全に一貫している。『ハイスクール白書』『アバウト・シュミット』『サイドウェイ』いずれの作品でも、そこでは常に“男子”が描かれている。“男性”ではなく“男子”だ。この二つの言葉が指すところの意味の違いは単純に年齢の問題ではなく、 主に精神的な自立の度合いによるところが大きい。主人公たちは社会との折り合いがうまくついておらず、自分の中に誇大妄想を抱えがちで、幾許かスノッブな傾向を有している。そんな主人公たちの姿と自分の日ごろの醜態が非常に重なる。観ていて恥ずかしくなるくらい。だからこそ、アレクサンダー・ペイン監督の作品はフェイバリットなだけでなく、自己批判的な要素を多分に含む人生の教科書なのである。

(評価:★4)

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