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[コメント] がんばっていきまっしょい(1998/日)

STAYGOLD。写真は色褪せていくけれど思い出の美しさはそのまま。
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画を観終わった後に冒頭に登場する写真をみると胸がキュンてなる(笑)はっきり言って、初見時は冒頭のシーンにまったく必要性を感じなかった。その後の展開に絡んでこないし、キャラクターを説明する役割も果たしていないから。でも一度観た後にもう一度見返すと、何でもなかったそのシーンが掛替えのない場面になっているから不思議。

その只中にいるときは何でも無かったものが、時間を置いて振り返ると大切なものに思えてくる。それって…青春そのものやーーん!

はっきり言って、全体的にはぼんやりした映画なんだ。田中麗奈が風呂場でみせるユリイカ演技は古臭いし、多用されるスロー&ストップモーションは耽美に過ぎる。中島朋子さん演じる先生の心の変遷が判りづらいし、主人公はじめ5人の少女のキャラクターについても明らかに説明不足。登場人物の欲求と葛藤が曖昧なままだから、最後の最後までカタルシスはないよね。

デモネッたらデモネ、いいんだわそれで。おっけーおっけー。そういう教科書的なメソッドやセオリーを超えて、本作にはそれを補って余りある魅力があるから。

「私が戻ってきた理由、話そうか?」「別にいいです」とさばけた二人。「スパーーーートーーーー!」「逃げるんよーーーーー!」と叫ぶ色白の少女。「パリッとしねぇなぁ…最近のシャツは」とぼやく洗濯屋のおやじ。劇中で語られる言葉の一つ一つに生活感と諧謔味が溢れている。

長田勇市さんのフェティッシュな撮影がフォトジェニックな少女たちの一瞬の輝きをあますことなくフィルムに収めている。本作は意図的に遠景のマスターショットが多用されている。クロースショットで少女たちの表情をとらえるよりも、心象風景を優先した結果だと思う。青春は、その只中にいるよりも遠くから離れた場所からみたほうが 奇跡的に瑞々しくて、とてもうらやましいものなんだよなぁ。

そして、何より!田中麗奈がこんなに魅力的な女優さんだったとは!演技ができねぇとか、大根とか言うやつは俺がぶっ殺す!映画初主演であの自然体はまさしく天才的演技でしょ。他の少女たちもDVD特典のメイキングみてると、実際はすごく現代的で垢ぬけてて女優(というか芸能人)て感じ。つまり、作品の中の彼女たちは、それぞれが素の姿ではなく、きちんと田舎の女子高生を演じていたということ。当たり前のことだけど、それをきちんとやりとおした磯村監督の演出は見事。徐々に日焼けしていくカラダ。精悍さを増していくボート漕ぎなど、細かい描き込みも忘れていない。

本作はいわゆる「かつて少年少女だったすべての大人たちのための青春映画」である。スポ根感は『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』に引き継がれ、青春の一ページ感は『リンダリンダリンダ』『ひゃくはち』に継承された。実に記念碑的な作品である。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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