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[コメント] 伊豆の踊子(1963/日)

浪漫漂う画調は郷愁の夢想を誘うも叙情が薄いSO-SO文芸映画
junojuna

川端康成の後世に残る作品であること、これまでに何度も映画化されてきたことにより、さまざまな角度から比較対照されてしまう定めにある本作において、まずは画面に落ち着く美術の懐かしさや雰囲気醸成は十分に味わえる作品だろう。それだけでも映画の旨味は達成されていると思える。ここで吉永小百合や高橋英樹を相手取ってとやかく言うつもりはないが、彼らも一過のオブジェに過ぎないのだとしたら、決して雰囲気を壊すわけでもなく、彼らとともにその劇空間に存在してみたいという気にさせてくれる風は不味くない。ただし、この監督には決して川端文学のみずみずしい叙情を表出させることは、どう逆立ちしても無理であろうことは自明のことだった。何よりドラマが人物関係の表面でしかない。川端文学に湛えられた自然背景とドラマとの二重写しや、踊り子が持つ本質的な哀しみへの愛着という感傷など、少なからずそうした叙情への匂いを期待をしてみたが、やはり皆無であった。この監督はおよそ十年後にまたやってしまうのだが、前述の川端や三島の『潮騒』、谷崎の『春琴抄』など、吉永小百合や山口百恵を起用した文芸路線の常連であることは注目したい。小説世界の滋味を描くことには足らないけれど、日本映画のある風味を生み出したことには間違いないのだから。そうして時の女優の身近で君臨していたとは実にうらやましくもある。

(評価:★3)

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