「お前たちは、またあの生活がしたいのか！雨漏りのするバラックで雑炊ばかり食っていたあの生活が！！」。あれだけ饒舌に語り会う家族が、たった一度、父親の言葉に黙り込んだシーン。おそらく、戦後、辛酸を舐め続けた親が、一度得た豊かな暮らしを維持する為に我が子でさえ利用するしかないような、その状況を表わす重要な場面。

モラルが混沌とした時代だったのか。妾をしている娘や金を使い込んだ息子は咎めないのに、親への言葉遣いや態度が悪いと注意する母親。なにかトンチンカン。

もしかしたら私たちは、「昔は良かった」の幻想に惑わされているだけなのかも。あの息子が今いたとしたら70歳前後か。「キレる老人」、「モラルを知らない老人」が社会話題になる昨今、その理由も分かる気がする。