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[コメント] プラトーン(1986/米=英)

規律を重んじたエリアス軍曹と統制を重んじたバーンズ軍曹両者の放縦にそれを許した少尉の無能さ。巧みな人物配置から戦場での悲劇の根底にあるものを提示する。
山ちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







内紛を起こしてまでも、(倫理的な意味での)規律を重んじるのがエリアス軍曹であるのなら、その規律を乱してまでも部隊の統制を重んじ、この理性を失わせる死と隣り合わせの密林の中で部隊の安定を重んじるのがバーンズ軍曹である。さらに指揮官である少尉は言わばこの巨大な双頭をもつ獣の上に乗った小人のようであり、彼らを操るにはあまりにも無能すぎた。それ故彼らの放縦を許してしまう。戦場がもたらす悲劇とはこのようなことから起こるものであろう。

このようにとらえれば、人物配置の巧みさには舌を巻く。さらに敷衍すると、エリアス軍曹はマリファナを吸い快楽に耽る。その快楽の追求は、死と隣り合わせの現状の恐怖からの逃避ともとれる。一方、バーンズ軍曹は、決してそれを吸うことなく博打に興じる。それは、負ければ不吉な縁も想起されるものである。この対比構造において、エリアスからただようもの、それは死臭であり、決して死を想起されることのないバーンズからただよう体臭は、それと対極的なものである。そうとらえれば、バーンズがなぜエリアスを射殺したのかの符号がつく。統制と安定を重んじる彼にとっては、それは自己の保身というよりもむしろその台頭してきた死臭がもたらす部隊全体の危険性に感づいたのではないかと。

だが、エリアスの死からはじまる統制の放縦も結局は悲劇をもたらす。徹底的に押し付ける情け無用のこの統制が隊員の士気を弱め結局暗澹たる結果をもたらす。だからこそ、統制の放縦に終止符をうつために新兵クリスは、バーンズを射殺する。しかし、それは規律を乱した者を、自ら規律を乱して射殺するということでもある。戦場とは結局、そのような矛盾に満ちた構造をとらざるをえないのだ。

部下が有能であってもその指揮官が無能であるがゆえにもたらす悲劇。そして戦場では規律と統制が相反する、という矛盾に満ちた構造がもたらす悲劇。これは表層的な反戦映画でも厭戦映画でもない。戦場がもたらす悲劇の根底にあるもの一つを提示したものに過ぎない。しかし、戦場とはそういうものでありこの根底から同じ過ちが今後も繰り返されていくのであろうと深く考えさせられる傑作である。

(評価:★4)

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