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[コメント] ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000/英=独=米=オランダ=デンマーク)

ウィリアム・フリードキンの『キラー・スナイパー』を見て、この作品を思い出した。ブラックコメディというか悲劇コメディ。あまりに極端な展開、セルマがとり続けるバカな選択と行動にまるで感情移入できなかったが、それらがギャグだとわかったら少し楽しめるようになった。
アブサン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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悲劇のレールをひた走る、にしてもあまりにも極端すぎる展開に思わず吹き出してしまう。

いや、世間で「鬱映画の決定版」と言われるこの作品に対してひねくれてる訳じゃなくて、本当に、心からめちゃくちゃな話にしか見えないのだ。

主人公の目の病気のことを知ってる工場の仲間たちから散々注意を受けたのに、ミュージカルの妄想をしてたせいで機械をぶっ壊し、それも工場長の優しさで許してもらって「もう絶対壊しちゃダメだぞ、次はクビにしなきゃいけないから絶対ダメだぞ!」とわざわざ念まで押され、そしてそこからのテンドンでまた同じ妄想で機械をぶっ壊してクビになるくだりとか、絶対ギャグでしょ。やってることがダチョウ倶楽部とおんなじだよ。こんな主人公、普通は感情移入できないって。

チャップリンだか誰かが言ってたけど、「近くで見れば悲劇に思えるものも、遠くから見れば喜劇になる」という言葉がまさに当てはまる。このわけのわからない選択ばかり選び続けるオバハンに降りかかる(極端すぎる)悲劇は、感情移入を拒む作りのせいで完全に喜劇になっている。

金をネコババしようとした挙句全部どうでもよくなっちゃって、「そうだ、どうせなら殺せ…いいぞ、そこだ、そうだそこを撃て…」とか妙にノリノリで指示するデビッド・モースもおかしすぎる。主人公も頼まれたからって人を殺すなよ。コントかよ。

いくら警官殺しだからってあんなにもすぐに死刑になるのかどうかも疑問なのだが、そういう極端な省略、拙速さもすごくギャグっぽいのだ。

このドキュメンタリーっぽい手法(手振れカメラや照明の扱いなど)も、非現実的で極端な展開とのギャップが際立ってギャグ感を強調していると思う。案外、THE OFFICEとかのにせドキュメンタリーコメディはこれを参考にしてるんじゃないのか?

ラース・フォン・トリアーの映画はほかに見たことないんでよくわからないんだが、これをどういうつもりで撮ったんだろうか。これだけド定番の設定(そうなんだよ、珍しくもないんだよこの程度の話)感情移入させるだけなら、もっといくらでもうまく作れただろうに。基教圏の文化では馬鹿さがピュアさや神聖さと結び付けられたりするらしいけど(『フォレスト・ガンプ』とか)、逆にそれを批判的におちょくってるようにすら見えてくる。

映画にはやりすぎたホラー演出で笑いを取るギャグホラーというジャンルがあるが、この映画はその悲劇版じゃないのだろうか。

ラスト、主人公が絞首刑になったあと、彼女が歌うはずだった歌詞が字幕で流れる映像は本当にすごいギャグセンスだと思った。超シュール! うすた京介のバカ歌詞ギャグみたいだ。

最後まで悲劇として見る気にはなれず、かと言ってそこまで笑えるわけでもなく、わけのわからん展開にウンザリしながら見ていたのだが、これには思わず声を出して笑ってしまった。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)jollyjoker[*]

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