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[コメント] 白い花びら(1999/フィンランド)

モノクロームの端正さは今までのカウリスマキ映画で随一。特に水辺の場面はジャン・ルノワールを想起させると云っても過言ではない驚くべき美しさ。
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厳密には「サウンド映画」と呼ぶべき『白い花びら』であるが、ここでは便宜的に「サイレント映画」としておく。カウリスマキが単なる懐古主義者でないことは、サイレント期にはカメラの物理的技術的制約から不可能だった撮影方法を用いていること(たとえば、走行する自動車の撮影)、サイレント期には時代的に存在しなかった小道具を登場させていること(電子オーブン、スポーツカー、エレキ楽器)などから明らか。ただ、その「サイレント・スタイルの画面」と「サイレント期の映画ではありえなかった撮影方法・小道具」という意図的な不調和が何らかの化学反応を起こしているかというと、そうは思えない。

カウリスマキの映画にあっては、音楽は作家自身によるコメンタリの役割を果たすのだが、サイレントであるはずのこの映画ではその傾向がより顕著になっている。また俳優たちはサイレントの作法に則った演技で、おのれの感情をかつてないほど率直に表情にあらわす。それゆえ『白い花びら』というサイレント映画は皮肉にも最も饒舌なカウリスマキ映画となっている。

ただし冒頭で述べたように、水辺の撮影の美しさは真に傑出しており、これは「このサイレント演出は失敗だ」とか「いやいや、この時代にサイレントに挑戦しただけでも価値がある」などといったサイレントに関する言説の次元を遥かに超えている。要するに、サイレントどうこうとは関係なく映画史に刻まれてしかるべきすばらしさなのだ。

(評価:★3)

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