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[コメント] 吸血鬼ノスフェラトゥ(1922/独)

これはロード・ムーヴィである。と云うには少々無理があるが、これが「移動」の映画であり、実に多彩な「場所」のカットを持った映画であることに異論はないはずだ。一般住宅・城・癲狂院・街路・森・山岳・川・草原・船・海・砂浜。美術の恐るべき達成度。ただのひとつのカットもおろそかに撮られていない。
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とりわけグスタフ・フォン・ヴァンゲンハイムの帰路など屋外のシーンには、思わず「『奇跡』だ、『赤い河』だ」と云いたくなる(まあ私の悪い癖ですが)途方もなく美しいカットがある。ここにホラー映画の源流を見ることや、これを表現主義の流れの中に位置づけることはもちろんできるだろうし、あるいはノスフェラトゥの手下アレクサンダー・グラナッハが群衆に追われるという一対多の「追っかけ」シーンにバスター・キートンほかアメリカのスラップスティック・コメディとの共振を認めることなどもできるかもしれないが、少なくともマックス・シュレックのヴィジュアルの奇怪は真に発明的であり、映画史の上でも文脈を欠いた異様な突出点をかたちづくっている(彼を見ている限りは「『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』もあながちまったくのでたらめというわけでは……」などと思いそうにもなりますが、本業は舞台俳優の人だそう)。

この作品だけの功績ではないにしても、「影」は文学以上に映画的モティーフたりうると証明した点についても忘れてはならない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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