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[コメント] ソラニン(2010/日)

「・・・ってのは駄目かしら?」。種田の照れ隠しのこの言葉に,この人が愛される理由がある。緩やかに日常が続くことを幸せに感じることのできる映画。
uswing

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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何の根拠もなく未来が明るいと信じていた青春時代の青臭さの一歩先の,先の見えない閉塞感。いや,先が見えているからこその閉塞感。若者らの焦燥感と倦怠感が息苦しいほどに描かれている。24,5歳で逝った種田と,遺された人々の再生の物語。

若い時に,特に20代で先立たれてしまうと,遺された者達は,なかなか納得がいかないんだと思う。私の大学時代の友人は,25歳の夏に,事故で亡くなった。その時,私は24歳だった。翌年,私は25歳になった。その友人は,一つ先輩だったのに,同い年になった。更に翌年,私は26歳になった。私は,その友人より先輩になった。この事実を受け入れることに時間がかかった。30代になった今思うと,せめて30代で彼が亡くなっていれば,もっと違う向き合い方もあったのだと思う。

自転車で二人乗りしながら,ビリーが胸中を吐露するシーンに,涙が止まらなかった。悲しくて悲しくて悲しんだことを思い出した。たとえ,結果的には,今後二度と会わなくても,この世の中のどこかに存在していると思うだけで,ほっと安心できるってことはありませんか?

「きっと二人でなら,どうにかやっていけると思うんだ」。こんなストレートな告白を,「・・・ってのは,駄目かしら?」と締めくくる種田の男臭くない姿勢がいい。明確な将来設計がない彼は,おそらく言い切るのに躊躇したんだろうけど,この言葉に彼の繊細さ,誠実さ,優しさが表れていて好感を持った。

他にも,宮韻△いがとにかく可愛い。美人ではないけど,独特の雰囲気があって,彼女が映画人に愛される理由がわかる。簡単に言うと,彼女の空気感が,作品にリアリティを与えているんだと思う。バンドの生音でソラニンをフルコーラス聴けたらもっと良かったんだろうけど,せめて彼女の歌が差し替えられなかったことを幸運に思う。

バンドがメジャーデビューといったとんでもない夢物語がラストにないのもいい。芽衣子が種田のギターをかきならし,彼の作った歌を歌ったことは,小さなライブハウスで完結する。観客は,そこに込められた思いに気づくこともなく,芽衣子の歌は個人的に完結した。ただそれ以上でもそれ以下でもない。

だけど,遺された彼らは日常を生きていくわけで,日常生活を円滑に営むための踏ん切りが必要であり,あのライブは,その健全な精神状態への良いきっかけになったのだろう。

若くして友人を亡くす人もいるだろうし,この映画をつまらない青春映画という人はいるだろうと思う。でも,私はこの映画の感触をずっと覚えていると思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)おーい粗茶[*]

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