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[コメント] トワイライト 初恋(2008/米)

ヴァンパイア映画でまだこれほどのオリジナリティを創出できるとは。あるいは少女文学という一点以外まったく似ても似つかないのに、相米慎二の『雪の断章 情熱』と脳内リンクしてしまったほどの、アイドル=偶像=虚構の作り込みの上手さを称えてもいいだろう。(ちょっとでも興味があるのならぜひ劇場で観賞を!)
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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原作は未読だが傑作の手触りがある。それに誠実に脚色されたであろうことも伝わってくるほどの気合の入りようもまたひしひしと伝わってきた。

まずは前半部分のミステリーロマンスの演出が冴えている。美少女の転校生に近寄ってくる同級生たちの、平凡な個性というべきキャラの豊かさ、そしてミステリアスなロバート・パティンソンの道化のようなキャラクター。容姿は好みが分かれると思うが、ステージアクトのような虚飾性が徹底していて、嵌ってしまえば現実逃避の深みに酔える。

往年のブルック・シールズや、ダリオ・アルジェント映画に出ていた頃のジェニファー・コネリーを思わせる美少女クリステン・スチュワートが、パティンソンの正体に気づいてからの展開がまた非常に出来が良い。パティンソンの擬似的家族の家を訪れるくだりである。

ここに内包された「もしも彼氏がヴァンパイアだったら〜」というあるあるネタのようなユーモア、これは等身大のティーンエイジャーの普通の恋愛に加え、ヴァンパイアモノのセルフパロディの様相も混合されて、終盤への巧みなリリーフシーンとなっている。とりわけ草野球のエピソードの独創性は、様々な想像や憶測を喚起させる奥深いものだ。

パティンソンが属するファミリーの「ベジタリアンなヴァンパイア」という着眼点にも嘆息する。父親のポジションにあるピーター・ファシネリは、(パティンソンの説明台詞によると)吸血という行為は相手が異性か同性かに関わらず性交の衝動に強く突き動かされると仄めかしている。しかし彼はその一線を越えてはいない。その点が、獣人に陥らない彼らの矜持である、という強い団結心となって結束しているのだ。

その論理に従い、主人公であるパティンソンのストイックぶりが高みに達していくのが終盤のバトルである。スチュワートへの恋心の絶対性は、彼女を前にして、彼我の距離がゼロになってもなお、「吸血しない」という、鋼のような自制心に裏打ちされており、その対比としてキャム・ギガンデットの野武士のような毒々しい狩猟本能が鮮やかかつ残虐に描かれる。バレエ教室でのアクションシーンは長くはないものの、その残酷な描写はそこまでやるか、というほどの鮮烈なものだ。

スチュワートがヴァンパイアになってしまえばすべては丸く収まるのだ、というのは観客の全員が思うことだろうし、彼女自身もそれを望んでいるのであるが、それにも関わらずパティンソンはプラトニックな恋愛、つまり魂のレベルでの絶対的な関係性を望むのである。そこに、エロスとタナトスの狭間で永遠に生きるヴァンパイアの非業を感じ、涙してしまう私であった。

(評価:★4)

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