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[コメント] 奈緒子(2007/日)

陸上部員役の新人俳優を始めとした魅力溢れるキャスト、ロケーション、撮影も申し分なく、あえて狙ったようなマンガチックな台詞の数々とのバランス感覚もまたおもしろい。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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青春映画の俊英、などと呼ばれる古厩監督の持ち味は、ある短い期間における非日常の描写である。冒頭、幼少時のドラマチックなエピソードで「過去の悲劇」を、九州駅伝で水を差し出す上野樹里とそれを受け取らない三浦春馬の効果的なスローモーションで「現在の状況」を見せ、この二人の再起をお膳立てする笑福亭鶴瓶の「動機と行動」が回り始める。しかし興味深いのは、こうしたストーリー構造が求心力を持つのではなく、逆にふわふわと浮遊を始めるところである。

夏合宿という特別な時空間の中で、指導者不在で宙ぶらりんとなった部員たちは、精神論とは無縁のただひたすら走るという運動のみによって時を消費する。その間、例えば民宿のおばちゃんとの交流とか、進路や恋についてのトークなどは一切なく、人間関係のいざこざは彼らがアスリート・チームであることだけを際立たせる。

この映画における青春とは、登場人物の内面描写にあるのではなく、映画そのものの純度の高さにあるのだ。キャラクターとストーリーを紡いで積み上げるのではなく、まず第一に被写体を捉えることで勝負しているといってもいい。そこに表れ出てくるのは具体的な「お話」ではなく、抽象的な「時の流れ」を生きる若者の姿であり、それが駅伝という劇中の現実によって再び具体的に描きだされるクライマックスは、理屈ではない大きな感動と余韻をもたらしてくれた。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] ナム太郎[*]

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