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[コメント] 赤い天使(1966/日)

増村保造の度胸の良さ。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 若尾文子演じる西は男性を通して戦争と対峙する。 戦争は人間を物や獣へと変えてしまうわけだが、西はこれを頑なに拒絶し、劇中、様々な局面で人間回復を図ろうとする姿が映し出される。 それは、物語の中心となる岡部との関係においては、その男性機能の回復という点に象徴されていると言っていいだろう。 したがって、あの岡部に対する愛くるしい勝利宣言には単に岡部の男性機能が回復したという意味以上に、戦争に対しての勝利宣言の意味も込められていたと言ってもいいだろう。

 しかし、西は本当に勝利したのだろうか。 この問いかけを増村保造はあの印象的なカットバックで表現している。 つまり、戦場とは思えないほどに弛緩している寝室と徐々に緊張感が高まる警備風景とを対比することによって、増村保造はその勝利宣言は早すぎるのではないかと問いかけているようである。 この対比を効果的なものとするため、陰鬱な雰囲気が漂い続ける劇中、アレだけの跳躍をみせた増村保造の度胸の良さは驚嘆に値する。

 もっとも、当の西と岡部は既に勝利を確信しており、お互いの体に認識票を付け、共に死のうと誓い合う。 西がその期待を裏切られるのは、身包みを剥がされ、結局戦争によって物に変えられてしまった岡部の姿を発見した時である。 号泣する西。 やはり奇跡は起こらなかったのである。

 また、劇中男女が体を重ねるシーンがいくつか表れるが、若尾文子の美しさに寄りかからなかった点は正解だった。 ダラダラと撮ることを避け、細かく撮っていった点もまた正解。 官能的でかつ気品溢れる密度の濃い映像が続いた。

 一つ言い忘れていたが、あの「足がまるで手と同じように敏感になっている」というくだりには思わず唸った。

 言い忘れついでに、不満も言わしてもらえれば、劇中思わず失笑してしまうようなところが多すぎたような気がする。わざとやっているところもあろうが、ちょっとやりすぎではなかっただろうか。池野成による音楽も悪くはないが少し物足りなかった。

(評価:★4)

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