煙草を吸うシーンが頻繁に出てきます。何の意味があるのか、始めはさっぱりわからなかったけれど、希望が持てないから吸うのだろうなあ、と思いました。明日死ぬかもしれないのなら、大人になる必要はないし、自虐的に煙草を吸えばいい。

クサナギは、生きていて欲しいと言われた後、煙草を吸うことをやめます。反復する時間を生きる少女兵士であるクサナギは、別にその肉体が滅んでもかまわないだろうけれど、禁煙する。代わりのきかない肉体だと気づき、気遣おうとする。そういう風にして、彼女が希望を見出したことを描いているのかなあと思いました。

名前に関して。何度死んでも、同じ人間が兵士としてやってきます。同じ人間なのだけど、違う名前がつけられてやってくる。押井監督が攻殻シリーズで繊細に扱ったテーマが「個を特定する」だったから、「名前」によって同じ人間が個別されている設定が面白く映りました。

そんな作品において、バセットハウンド犬の描写は、飛びぬけて良かった感がありました。おそらく、愛犬のガブリエルちゃんを注意深く観察して、その癖を再現したのでしょう。あまりにも緻密です。素晴らしく緻密です。我々には、ただのバセットハウンド（同じ人間）に見えるものが、特定のバセットハウンド（特定された個）であるとしたら、本作の主題にとてもマッチしています。押井監督の愛情が感じられます。