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[コメント] 小森生活向上クラブ(2008/日)

正義の「フル勃起」を条件付けるもの。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







小森が、自らの行なう私刑を正当化しようとして話していた「元気な挨拶を欠かさない駅員さん」の心温まる話がいつしか、小森に影響された連中の間で、正義の殺人という行為とセットで社内に伝染していくパンデミックぶりが、倒錯的かつコミカル。さらにはこの話が、実は小森のオリジナルな話ではなく、過去に彼の妻から聞いた話だったという顛末。拳銃を手にしたことで、男としての気概と精力を取り戻したはずの小森は、実は女房の掌の上で踊らされていたということ。ラスト・シーンでは、小森自身の暗喩であろう、砂漠にそびえ立つ孤高の城が崩壊するのを傍らに、妻に向かって「そう、君の考えを実行したんだ!」と、とりつくろう小森。城に代わって、巨大なティーカップなどという、家庭的な道具が砂漠の上へと浮上する。「フル勃起」と呟いて妻が握ったものも、小森のマラではなく、拳銃。

この、男として立つ(勃つ)ことが女の掌の上での出来事である構図は、KSC(小森正義クラブ)の会員たちが、及川(栗山千明)の穴兄弟として集合することからも既に明らかだ。その一方で小森自身は、及川と二人きりで夜、帰宅の途についた際、終電を逃した及川の「送ってくれますか?」の誘い文句に乗りかけたようなのだが、及川の「たくさんの男たちと寝ても、不倫だけはしないことに決めているんです」という一言で、及川による性的コネクションから排除されることになる。

ただ、この及川を演じる栗山は、不特定多数の男を漁る淫靡な女には見えず、タクシーの後部座席に於ける北沢(忍成修吾)との激しいキスもどこか、図式的・説明的な「そういう場面」の域を脱していない。いつものクールビューティさが今回は、生々しい役柄との齟齬を生じている嫌いがある。

KSCが組織として固まっていくことで、小森の立場も、次々とデスクに置かれる書類に目を通し、ハンコを押していくという、会社のデスク・ワークと酷似したところへと回帰させられる。プールでの会議でも、会員たちはこう言っていた――「俺たちサラリーマンだから、役職が決められている方が動きやすいんです」。フル勃起と同時に去勢される、クロノスの息子のような正義漢たち。

(評価:★3)

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