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[コメント] やわらかい手(2007/ベルギー=ルクセンブルク=英=独=仏)

「祖母」から「女」への回帰、という冒険譚。マギー(マリアンヌ・フェイスフル)の、控えめで奥手な表情の裏に垣間見える女らしさがチャーミング。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







マギーが求めていたのは、孫の命を救う為の金銭だけではなく、彼女自身の居場所だった。序盤での、息子夫婦と並んでいても嫁とはろくに視線も交わさず、嫁の固く閉ざした表情と、彼女を気遣う息子、この夫婦とマギーとの間には、冷たい空気が漂っている。

ラスト・シーンでマギーは、孫につき添って飛行機に乗るのを断り、風俗店の店長ミキ(ミキ・マノイロヴィッチ)の許へ行く。また、マギーに客を奪われた女友達に拒絶され、追い返される場面でマギーは、孫から禁じられていた煙草を吸う。しかも、若い男達から煙草を貰う形で。

祖母という立場から、一人の女へと、知らぬ間に変貌しているマギー。だからこそ、自分の仕事を侮蔑して絶交を言い渡してきたお茶仲間に対しては、亡父と彼女とが不倫していたのを知っている、と言い返し、彼女の性癖まで暴露してみせる。そして、長年我慢していたお菓子を、遂に注文する。この映画に於ける「性」は、「解放」と結びついているのだ。

ミキもまた、マギーの手に触れ、密かに男性自身にも触れられる事で、孤独を癒し始めたように見える。マギーが褒める彼の笑顔の、泣き顔のような寂しげな優しさ。彼は、客のとれなくなった女を追い出した際には、マギーから「必要とされるのは、ビジネスの上でだけ?」と問われ、マギーが自分の仕事部屋に絵や花を飾りつけてプライベート空間化した行為に呆れさせられたりもしていたが、実際に高額でマギーが引き抜かれそうになった時、金ではなく彼女を必要としている自分に気づいたのだろう。

男は、金に目を向ける余りに、肝心な事になかなか気がつかない――。この事は、マギーの息子にしても同様だ。母がどんな店で金を稼いでいたか知った時、殆ど発狂せんばかりに激高する彼だが、それまでマギーを軽視していた嫁は逆に、「彼女は孫の為に身を挺してくれた」と、ただひたすらに感謝するのだ。「行為」に逆上する息子と、その裏の「心」を読む嫁。

女たちの或る種の正直さという点では、マギーが仕事を告白した際の、お茶仲間たちの反応も面白い。

(評価:★3)

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