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[コメント] フル・モンティ(1997/英)

失業のみならず、「体を品定めして楽しむ」事の男女逆転にも気落ちするオヤジらの脱ぎは、自身を縛っていた空虚な「男のプライド」を脱ぎ捨てる事の苦行と、その先の解放感へと向かう行為。「脱ぐしかない」と「むしろ脱ぎたい」のせめぎ合いと交錯のドラマ。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「収入」という男の甲斐性を得る為には、男として屈辱的な「女の性的覗き見趣味の対象」になるしかない、という逆説。だが本当に彼らに必要だったのは、金も美貌も無い裸のままの自分が受け入れられる事だった。「俺みたいなデブの裸を誰が見たがる?」というデイヴに妻が「私は見たいわ」と潤んだ目と菩薩的表情で告げるシーンの、自信回復・精神的インポテンツ克服の予兆には感動するが、同時に、結局この映画のストリップは、女性客の為というより脱ぐ当事者のオヤジたちの生まれ変わりの為の通過儀礼なのだという、ややオナニズム的な構造が垣間見えた気もした。主人公らの元上司ジェラルドが妻に半年間失職を伏せていたのが知れた際の、妻の「嘘をつかれていた事だけが嫌」という言葉は、彼がそれまで取り繕っていた行為が全て無意味な一人相撲だった事を告げる。一度、元部下たちに割られた後で修復して誤魔化した陶製ノームを、「お前、好きだろ?」と妻に差し出したら、「嫌いよ」と落として割られた時、ジェラルドが自分の中だけで考えていた夫婦像も木っ端微塵になったに違いない。そんな彼が、仕事が見つかったにも関らず最後のショーに出演する事は、脱ぐ事がもはや金がどうこうという域を超えた、自己超克的な意味を持った事を端的に示している。

(評価:★3)

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