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[コメント] 自転車泥棒(1948/伊)

人が何かを盗まれた時、失うものが二つある。
たわば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







それは”モノ”と”こころ”。盗まれたのは自転車そのものと『ルパン三世カリオストロの城』の銭形警部が言うところの「あなたの心です」だったのだ。(と言ってもお父さんが泥棒に恋した訳ではない)

お父さんは、職はなくとも優しくて家族思いのいい父親であった。それが自転車を盗まれたことで、家族(特に子供)を思う気持ちも一緒に盗まれてしまったのだ。そしてお父さんは盗まれた”モノ”を盗み返そうとして失敗する。ここで失敗することが重要なのだ。もし成功していれば、職にもつけ、生活は安定するだろう。だが子供はどう思うだろうか。「でもお父さん・・・あれは盗んだ自転車だよね?」「やかましい!子供のくせに大人に口出しするんじゃない!バシッ!(殴る音)」「あなた!なにするの!」「え〜い、うっとうしい!酒だ!酒買ってこい!」「うわあああ〜ん!!こんなの父ちゃんじゃないやい!」そんな家庭崩壊の姿が目に浮かぶ。”モノ”は取り返せても、”こころ”がなければ幸せは取り戻せはしないのだ。

やがて盗みは失敗し、お父さんは惨めな姿を子供に晒してしまう。だが、その行為は決して自分の欲望のためではなかった。そのことはきっと子供にも伝わるはずだ。「お父さんは、ぼくたちのために盗もうとしたんだよね?」だからこそ、息子が差し伸べた小さな手にはそんなぬくもりが感じられるのだ。この映画は、我を忘れて自分を見失いかけていた父親が、家族への愛、そして自分自身の”こころ”を取り戻す映画なのだ。

お父さんと息子が握るその手には親子の絆がしっかりと握られていた。そしてそんな姿は、親と子という両輪の輪を持つ自転車のように思えるのだった。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)irodori ジョー・チップ ina

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