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[コメント] フェアウェル さらば、哀しみのスパイ(2009/仏)

有能なスパイである一人の男の、人間としての生き様は確かに心をうつ。だがラストで描かれた、情報戦の闇と、それだからこそ浮かび上がる人間の業の深さには、それ以上の生々しい衝撃があった。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







「科学技術を中核とした情報戦がソ連の生命線であり、それが断ち切られたことがソ連崩壊の引き金となった」とまで言われると、やや違和感はある。

だが、少なくとも本作の主人公のような人たちが、色々なところで次々と現れてきたからこそソ連は崩壊したのだろうし、その一人一人にこのようなドラマがあったのであろう。そういう人たちの人生を描いたものとしての重みは十分に感じられた。

また、互いにそ知らぬ顔をしながら二重スパイが横行し、いざとなると旗色の良さそうな方へとひるがえる。そういう情報戦の真っ只中において、主人公の気概と人間としての誇りのその一方で、対極にあったのがウィレム・デフォーのCIA長官ではないだろうか。

自分の手もとを通っていない情報にはなんだかんだとケチをつけ、ラストでは自分の作った内通者・二重スパイは銀行口座をつくって金を受け取っている、わが身が危なくなるないしは自分の国がやばくなるとさっさと亡命してくるから、より信用できる男だと言わんばかりの言動。

フェアウェルのように金はいらないといい、身の安全のために亡命を進めても「愛国者だから」といってそれを拒む。「世界を変える」とかはどうでもいいというか、単なるたわ言だと言わんばかりの態度にも見える。

まさに人間のもつ嫌らしさを全開にしながらいいところだけはかっさらっていく。案外、そういう人間性を浮き彫りにするのが情報戦の怖いところではないかと思ってしまった。

この点では、FBIにいながら旧ソ連、そしてロシアへとアメリカ側の情報を高額の報酬のために流し続けた二重スパイを描いた映画『アメリカを売った男』は、ある意味では本作の対極にあるのだが、二重スパイの実態をリアルに描いた映画としては、双璧をなすといってもいいと思う。

(評価:★4)

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