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[コメント] マリア・ブラウンの結婚(1979/独)

いきなりエンディングの考察から書こうと思う。このラストは矢張り、ヒロインでタイトル・ロール−ハンナ・シグラの意志が招いた結果だと私は思う。
ゑぎ

 そう思う一番大きな根拠は、直前にバスルームにいる彼女のショットがあるからだ。詳細は割愛するが、彼女の失意と逡巡を表しているように私には見える。彼女はキッチンに入った時点で、決意したのではないか、ということだ。

 さて、本作は冒頭から終盤にいたるまで、基本、マリア−シグラの成功譚と云うべきだろう。母親と一緒の狭い借家暮らしから、戸建ての持ち主になる、あるいは、進駐軍(米軍)相手の酒場女から会社重役にのし上がるといったプロットが描かれている。ただし、成功譚だが成長譚ではない。本作のヒロインも初めから(それは空襲下での結婚式の場面から)、既に成熟しているというか、人物として出来上がっていたように思う。しかも、超人的な自我と胆力の持ち主ではないか。しかし、彼女の既成の価値観にくみしない処世の描写が本作の面白さの第一となっている、と云っていいだろう。

 一方、画面造型に関しては、ミヒャエル・バルハウスの仕事として突出する部分が乏しく、ちょっと寂しいと感じたのが正直なところだ。また、プロットの運びにもソツは無いが、ファスビンダーにしては、普通のメロドラマに過ぎるという感覚も持つ。

 もちろん、良いシーンも沢山あるので、いくつかあげておこう。まずは、マリアが米兵のビルと服を脱がせ合っているところに夫のヘルマン−クラウス・レーヴィッチェが帰還する場面。飛びつくマリアをつき飛ばすヘルマン。フルチンで助けるビル。しかし、ヘルマンはマリアそっちのけで、机の上のタバコに走る。このあたりの人物の動かし方と長回しのフルショットでの見せ方は面白かった。

 あとは、何と云ってもラジオ放送の使い方だろう。夫ヘルマンの帰還を待つマリアが、引き揚げ者を読み上げる放送を聞く場面なんかもあるが、ラジオ放送が流れる中で、人物が会話を続ける演出、ラジオからのアナウンスと人物の科白が重なりまくる演出は特筆すべきだと思う。これが2回ある。一つは西ドイツの再軍備に関して首相(アデナウアー)がコメントしているニュース。そして、もう一つが、終盤の1954年サッカーワールドカップ決勝(西ドイツ対ハンガリー戦)のラジオ中継が流れる中での、夫ヘルマンとマリアのやりとりから始まるエンディングまでのシーケンスだ。特にラストシーケンスのこのラジオ放送の使い方は、一番上で書いたマリアの失意と逡巡を性急に切羽詰まって見せることに奏功する見事な演出だ。

#序盤、戦後すぐの場面で、トランクに入れた品物を売る男はファスビンダーだ。

(評価:★3)

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