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[コメント] 黒水仙(1946/英)

やはりまず第一にジャック・カーディフの色遣いのことを云わずして何を云うべきか。『天国への階段』は若干着色っぽい違和感のある仕上がりの印象があるのだが、本作になると、もう夢のようなテクニカラーが現出している。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 現実らしいとか不自然であるとか、そう云った事柄はどうでもよくなってくる。「夢のような」というのはもはや比喩の域を超えている。テクニカラーは真の映画的現実なのだ。

 撮影に絡む特記すべき創意は他にもあり、その一つはこの当時としてはエクストリーム・クローズアップがかなり多用されていることだ。それは殆ど登場人物の目のアップとして示され、例えばデヴィッド・ファーラーの感情の変化やキャスリーン・バイロンの歪んだ精神性をフィルムに定着する。

 そして、私が最も良いと思ったシーンは、クライマックスに突入する直前(それはキャスリーン・バイロンが赤いドレス姿になる直前)に、デボラ・カーとデヴィッド・ファーラーが会話するシーンだ。デボラ・カーがかつて故郷アイルランドで結婚しようと思っていた人がいたことを語る夕陽の斜光のシーン。このツーショット(というか、画面奥にバイロンが盗み聞きしている姿も小さく映っている)の会話シーンで3回ほどカットを割るのだが、ファーラーの動作に合わせて2回アクション繋ぎをする。これが多分2台のカメラを用いたマルチカメラ撮影で、実に繊細な、同時にヒリヒリした感覚のカッティングになっている。こゝは二人が(主にデボラ・カーが)初めて本音で会話をし、ファーラーがデボラ・カーに向って「すぐにここから去れ!」と言うプロットの転換点となる重要なシーンであり、この後のクライマックスをお膳立てする意味でもこの繊細なアクション繋ぎが、のっぴきならない、切羽詰った感覚をジワリと醸成しているのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ナム太郎[*]

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