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[コメント] 暗夜行路(1959/日)

ロングショット気味に引いたカットからアクション繋ぎで寄ったカットに何度も繋ぐが、2台カメラのマルチ撮影のように見える。とてもダイナミックなカッティングだ。
ゑぎ

 マルチ撮影と思わしき例では、尾道のシーンで、謙作−池部良が出生の秘密の手紙を読んだ後の屋外場面、海の見える高台に佇む場面なんかは、とても情感溢れる繋ぎになっていた。

 原作を読んだのは中学か高校の時なので、本作が、どの程度志賀直哉に忠実なのか、もう分からないが、大筋、このようなプロット展開だったのではないかと思う。謙作の妻は山本富士子。祖父が世話した人、お栄は淡島千景がやっている。

 前半、池部が兄の千秋実経由で淡島に求婚し、断られた後も、二人が同じ家で暮らす時期が続くのだが、この辺りは、この二人よく一緒に生活できるな、と思う一方で、池部の気持ちを知ったうえでの淡島の対応が余計に妖艶に見えるのだ。いや、もとより、淡島も池部に気があることが明白な演出、というのがタマラナイところだ。

 山本富士子は中盤の京都のシーンで、汐見洋と一緒に登場。親子なのか。一瞬愛人に見えるような所作の演出がされていると思う。鴨川の側、旅館の女中は若き加藤治子。池部は友人の北村和夫に山本のことを探ってもらう。このシーケンスの北村と池部の会話シーンは、まったく陳腐で吃驚した。どうしてこんな力の抜いた場面を作るのだろう。この後、池部の想いだけで、結婚話が進み、ずっと山本は隠蔽されてしまうのだが、唐突に結婚後のシーンになって、山本が、池部に対して、もうめちゃくちゃに好き好き光線が出ていることに、唖然となってしまった。勿論、本作でも、山本は最高に美しいので、許してしまうのだが。

 あと、淡島は天津へ行き、お才という従姉妹の店を手伝うと云い出すが、このお才を杉村春子がやっており、登場するや、完全に場をさらうのだ。手番は少ないが、全く見事の一言だ。

 さて、後半には、山本の幼馴染の従兄弟−仲代達矢がからんだ事件が起こり、池部と山本の関係がギクシャクしてしまう。この事件の場面は山本の回想、フラッシュバックで描かれるのだが、このシーケンスは、ずっと斜め構図のカットが続く。私は、こういうアングルの演出は大嫌いです。この辺りも豊田四郎をイマイチ好きになれない理由だ。

 ただし、ちょっと池部が機嫌を直して、皆で宝塚へ遊びに行こうという場面。駅のホームで汽車に飛び乗ろうとする山本を、思わずイラっとなって突き飛ばす池部。このシーンのアクションの見せ方、カット割りは見事でした。

 また、終盤は鳥取県の名峰大山が舞台となるが、池部が山の中腹から朝日を見る場面については、池部の正面カットはスタジオ、池部越しの朝日はロケーション撮影だろう。こゝは、できればカラーで見たかったなぁ、と思った。

#備忘でその他の配役等を記述

・池部の父は中村伸郎。家は本郷にある。池部が最初に求婚しようとする愛子(登場しない)の母親で長岡輝子。池部の東京での友人役で仲谷昇

・遊郭のシーンで荒木道子岸田今日子が出てくる。岸田への演出も色っぽい。胸が見えそうで見えない。彼女が京言葉を喋るので、池部は京都へ行く。

・京都の家の女中(婆や)は賀原夏子。仲代達矢が連れて来る書生仲間に小池朝雄

・大山での逗留先のおかみさんは南美江で、その娘に市原悦子。大山の寝間の畳や布団の上に沢山のカブトムシのオスが放される(メスは一匹もいない)。これ変です(変というのは誉め言葉ですよ)。

(評価:★3)

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